誕生の経緯は異なるがメカニズムは似ている
パサートヴァリアントR36とパサートCCは、フォルクスワーゲンの頂点に位置するモデルとして登場した。この2台の誕生の経緯は大きく異なるが、よく見ると共通点も見えてくる。フォルクスワーゲンにとってこの2台の登場はどんな意味を持つのか、フォルクスワーゲンが目指すトップレンジのクルマ造りの狙いはどこにあるのだろうか。
まず、なぜこの2モデルが登場したのか。それを考えると、フォルクスワーゲンにとって、ラインアップの空白をどう埋めるかという社内事情が見えてくる。
フォルクスワーゲンには、パサートの上のモデルというものが存在しなかった。超高級車のフェートンとパサートの間には大きな空間があり、それを埋めるモデルが欲しいと考えるのは当然のことだろう。これまではアウディが担当していたということだろうが、ブランドが異なるのでユーザーがそのまま移行してくれるとは限らない。
また、ホットハッチとして新しいスタイルを築いたゴルフGTIは、軽快な走りを楽しむドライバーを世界中で増やしたが、スポーツカーとしてさらに上の性能を求めようとすると、フォルクスワーゲンには受け皿がなかった。そのためにゴルフR32などスペシャルなモデルが開発されたが、さらにその上が欲しいというのも納得できる。残念ながらここでもフォルクスワーゲンでスポーツドライビングの楽しさを経験したのち、他ブランドに向かってしまうという現象があったのだ。
それらを解決するために登場したのが、Rの称号が与えられたパサートヴァリアントR36であり、華やかな高級感を身にまとったパサートCCというわけである。
パサートR36は時代の要求に即したスポーツモデル
御存知の通り、パサートヴァリアントR36は通常のラインアップモデルではなくVWインディビデュアル社製の特別なモデルである。
エンジンは通常のパサートにはない3.6L V6エンジン(トゥアレグに採用されているものと同タイプ)が搭載されているが、吸気系、排気系も含めて全面的にチューニングし直され、その最高出力は299psまで高められている。駆動方式は当然ながら4モーションとなり、トランスミッションは6速DSGが組み合わされている。また、そのエンジンパワーに負けないボディ補強、サスペンション強化、ブレーキ強化なども行われているのは言うまでもない。Rとはレーシングを意味すると言われているが、その名に負けないモデルである。
インテリアも特別に仕立てられていて、エクステリアもデザインし直されているが、これらの企画や開発を行ったのが100%子会社のVWインディビデュアル社というわけである。特別受注生産を担当するVWインディビデュアル社だけあって、こだわりのある凝ったモデルだ。BMWのMモデル、メルセデス・ベンツのAMGモデル、アウディのRSモデルなどにあたると考えていいだろう。
R36に乗ると、このモデルがスポーツモデルとして時代の要求に即した存在だということがわかる。日本でスポーツモデルというと、2シーターとか2ドアクーペというイメージが強いが、最近のヨーロッパではどうも違ってきているようだ。その意図するところは、単にガンガン走るだけでなく、日常の使用から長距離ドライブも快適にこなすクルマということだ。日本市場へのR36の導入はヴァリアントだけだが、ヴァリアントのほうがその性格をよく表しているということ、そして4ドアセダンとしてはパサートCCを投入する予定があったということがその理由として考えられる。
ドライビングを楽しむためにサーキットへ走りに行く。あるいは休日は夫婦、家族で小旅行に出かける。普段は奥さまが買い物に使うこともある。友人たちと一緒にゴルフに行くこともある。普通ならこれをすべてできるようにすると、そのどれもが中途半端になりがちだが、それらを高いレベルで実現している。そのキーポイントとなっているのが、VWインディビデュアル社ならではの高い品質であり、DCCアダプティブシャシコントロール、ACCアダプティブクルーズコントロールといった先進技術だ。