いよいよそのハンドルを握る時が巡ってきた。いったい、どのようなパフォーマンスを体感させてくれるのだろうか。従来型のM4でも、十分な実力を備えていたはずだ。挑戦的な表情を得た新型M4の進化を確認した。(Motor Magazine2021年6月号より)

良い面に満ちたAT仕様。エンジンの感触は常に緻密

センターコンソールに配された真っ赤なボタンのプッシュ操作で迫力のサウンドとともに瞬時に目覚めたユニットは、予想どおりにあらゆるシーンですこぶるパワフルだ。1Lあたりの出力が170psオーバーに達するハイチューンユニットながら、街乗りシーンではアクセルペダルに「触れる程度」でも十分に周囲の流れをリードすることが可能。そこには、神経質さなど微塵も感じられない。

そうした常用場面での走りの好印象に貢献しているのが、前述のトランスミッションでもある。走り始めや変速の滑らかさは、いかにもトルクコンバータ式ATならではの美点という印象。同時に、アクセルペダル操作に伴う遅れのないタイトな加速感はDCTばり。それはまさに「両方式の良いとこどり」のごときテイストの持ち主で、「これならば、2速多いこちらの方が変速時のステップ比も小さく、あえてMTを選ぶ気にはならないかも」と、思わずそんな印象を述べたくもなる仕上がりだ。

一方、このモデルのパワーパックにとってのハイライトは、もちろんアクセルペダルを深く踏み込んだ場面にこそあるのも、言うまでもないことだ。最高出力を発生する6250rpmというポイントはおろか、それを飛び越えレッドラインの引かれた7200rpmまで一切の頭打ち感など認められない緻密な回転フィールは、スポーツ派ドライバーの琴線に触れるゴキゲンそのものの仕上がり。調律が行き届き、ホットな走りへの高揚感を誘う直6ユニットならではのサウンドも、もちろん価値ある逸品と実感できる。

画像: 搭載の3L直6DOHCツインターボ。最高出力510ps、最大トルク650Nm。

搭載の3L直6DOHCツインターボ。最高出力510ps、最大トルク650Nm。

標準モデルが用意されるM4は1298万円から。日本仕様ではコンペティションモデルのみとなるM3は1324万円からと、新型のプライスタグはさすがに高価だ。しかしそのうちの半分の価値は、絶妙なコンビネーションを味わわせてくれるこのエンジンとトランスミッションで構成されるパワーパックにある・・・と、思わずそう納得しそうにもなる。

一方、そうした圧倒的な動力性能を堪能しているうちに、遅れての登場が予告されている4WDバージョンに対する理解と期待を示したくなったのが、そのトラクション能力であったことも事実。たとえドライ状態の舗装路面上でも、ラフなアクセルペダル操作では2速に入ってからも容易に空転しようとする気配を感じさせるパワフルさには、率直にいって「2輪駆動の限界」を意識させられるものでもあった。

もちろん、これがウエット路面にでもなれば、そんな思いをさらに強くすることは確実。今後もこのモデルが走りのパフォーマンスを高めていこうとする限り、そろそろ「M3/M4はFRレイアウト」という固定観念に終止符を打つタイミングが近付いているのかもしれない。

足まわりは3段階の可変式快適なコンフォートの設定

サスペンションは、電子制御による可変減衰力ダンパーを用いた「アダプティブMサスペンション」が標準装備。もちろん、本格的なサーキット走行までを視野に入れているだけに、そのセットアップはなかなかに硬派だ。

とはいえ、ボディ各部に微に入り細を穿つさまざまな補強策が施されたことで、不快な振動は瞬時に減衰。この種のモデルを選ぼうというユーザーにとっては、十分に「普段使い」にも耐えうる快適性の持ち主であることも確認できた。

もちろん、サスペンションの構造そのものも、ボールジョイント付きアルミ製コントロールアームを用いた専用スペックのフロントストラットや、新開発のハブキャリアやコントロールアームを用いたリアサスペンションなど、新しいアイテムを潤沢に採用した専用設計。フットワークのポテンシャルも、一般道のみのテスト走行ではその限界を見極めようもない、さらなる高みへと引き上げられていることは確実だ。

電子制御されるダンパーのセッティングは「コンフォート」「スポーツ」「スポーツプラス」の3段階。ボディの動き量はやや大きくなるものの、今回のテストドライブではやはり大半の区間をコンフォートのポジションで過ごすことになった。一方、前述したボディの動き量を抑え込むには、スポーツが好適。ちなみに、この各ポジションのセッティングは、路面の荒れた部分も多い「ニュルブルクリンク北コースでのテスト走行で煮詰められた」とされている。

今回のような公道上では、どうしても「跳ね気味」の挙動を示しがちだったのがスポーツプラス。実際、開発陣からも「路面状態の良いサーキットにおいて最大限のパフォーマンスを発揮する」というコメントが付いている。状況によっては「最速セッティング」となり得る一方、同時に道を選ぶのもこのポジションと言えそうだ。

こうして、歴代モデルへのオマージュを踏まえつつ、改めて「BMW車でもっともサーキットの香りが強く漂うモデル」という立ち位置を明確にしたこのモデル。次回は、是非ともサーキットを走ってみたい! と、改めて思いを新たにしたのは当然のことである。(文:河村康彦/写真:永元秀和)

画像: 今回の取材には車両の用意が間に合わなかったM3コンペティション。基本的な装備と仕様はM4クーペコンペティションと同じだ。ちなみにM3標準モデルは日本未導入。

今回の取材には車両の用意が間に合わなかったM3コンペティション。基本的な装備と仕様はM4クーペコンペティションと同じだ。ちなみにM3標準モデルは日本未導入。

BMW M4クーペ コンペティション<M3コンペティション> 主要諸元

●全長×全幅×全高:4805×1885×1395mm<4805×1905×1435mm>
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:1730kg<1740kg>
●エンジン:直6 DOHCツインターボ
●総排気量:2992cc
●最高出力:375kW(510ps)/6250rpm
●最大トルク:650Nm/2750-5500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・59L
●WLTCモード燃費:10.1km/L
●タイヤサイズ:前275/35R19、後285/30R20
●車両価格(税込):1348万円<1324万円>

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