最新のS58B30A型はより高回転型に進化
そして最新型となる6世代目(G80/G82)M3/M4のエンジンは、3L直列6気筒ツインターボを踏襲しており、一見5世代目と大差ないように見えるが、実は中身が大きく変わっている。
シリンダーヘッドの内部を冷却水が巡回するために隅々まで細かい回路が必要になる。それを作るためにひとつずつ3Dプリンターを使って型をとってアルミ鋳造するという丁寧な作業によって成り立っている。これによりウォーターインジェクターなしでノーマルのM4クーペ(ベースモデル、6速MTのみ)用のS58B30B型は480psと550Nmを発生。さらにM3/M4コンペティション用のS58B30A型は510psと650Nmにパワーアップしている。
さらにS58型から始めた冷却方法は、ピストンを下から冷やすオイルサンプだ。通常は1本の噴射だが、S58型は2本にしたのだ。この他に新しいS58型が先代のS55型と大きく異なるのは、クランクシャフトの受け方だ。クランクシャフトを下から支えるのはアルミニウム製のベッドプレートタイプだったが、新しいエンジンでは鉄製の受けになった。アルミのベッドプレート方式は高回転で回る分には問題ないが、1回ずつのより大きな爆発力に耐えられるようにするためには鉄製の受けが必要になったからだ。
クランクシャフトといえば、S58型はフルカウンタータイプになっている。ひとつひとつは薄くして質量を減らしているが、これでバランスを取って高回転に対応できるようにしている。また、サーキットを走ることを前提に作られたエンジンだから、長い高速コーナーでオイルが偏っても潤滑できるようにメインポンプ以外にサクションポンプを複数設けているのも特徴だ。
このS58型エンジン、実はM3/M4の前に2018年にデビューしたX3 M/X4 Mですでに採用されていた。ただしチューニングはM3/M4とは異なり、ベースモデルは480psと600Nm、コンペティションは510psと600Nmの仕様となる。X3 M/X4 Mの場合はエンジンルームの高さに余裕があったから、吸気用のインタークーラーがヘッドの上に配置されていたが、M3/M4ではシリンダーの横に移されている。
こうしてBMW M社はMモデル専用のエンジンを絶え間なく開発している。このMモデル専用エンジンはコードの頭に「S」が付く。通常のBMWのエンジンコードはB(古いのはN)から始まるが、Sから始まるものはない。ただし例外的にG30/G31のBMWアルピナB3には、新しいS58B30型エンジンが採用されている。もちろんプログラムはアルピナのキャラクターに合わせて変えられていて、最大トルクは700Nmとかなり太い。
エンジンコードの頭文字に関わらずBMWのすべてのエンジンは「TVDI」の要素が入っている。これはターボ、バルブトロニック、ダイレクトインジェクションで、今のBMWエンジンに共通する技術である。
新しいM4コンペティションに乗ると、先代よりも低速トルクが薄くなった気がする。不精してシフトダウンしないで高いギアのままアクセルペダルを踏み込んでも期待するほど加速してくれない。その代わりエンジン回転を高めにして走ると凄い性能を発揮する。安楽ドライブではなく、超官能的ドライブ。これぞMモデルらしい味わいと言えるだろう。
今後CSLやGTSが出るのか不明だが、さらなるパワーアップ、トルクアップする際にはまた別の秘策があるのだろうか・・・。(文:こもだきよし/写真:伊藤嘉啓・永元秀和)