2008年秋、5代目マセラティ クアトロポルテがマイナーチェンジすると同時に、4.7L V8ユニット搭載の「クアトロポルテS」を追加して日本に上陸した。早速Motor Magazine誌は新たな魅力を身につけたクアトロポルテSと、リフレッシュされたクアトロポルテを連れ出してロングツーリングテストを行っている。ここではその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年3月号より)

他の国のクルマにはない「イタリア車らしさ」を体現

今回は、昨秋(編集部註:2008年秋)に日本上陸を果たしたクアトロポルテSとクアトロポルテを連れ出し、静岡県掛川市にある二の丸美術館を目指しながら、その魅力を探ってみたいと思う。

一見、内外装の変更点は少なそうに見えるが、実物を見ると随分と迫力が増した。とくに顔つきが違う。楕円形に近くなったグリルがぐいっと前に出てノーズ感も一層強くなり、大型になったLEDポジション入りヘッドライトと左右のインテークとがあいまって、以前のファニーフェイスから一転、押し出しの利いたフロントマスクとなっている。そのほか、ドアミラーやリアランプ、リアバンパーが主な変更点である。

ポルトローナフラウレザーのインテリアが、相変わらずむっとした独特の空気を匂い立たせつつドライバーを迎え入れる。シートデザインのほか、シフトベースの前からダッシュボードセンターにかけても大きく雰囲気を変えた。

このあたり、ちょっと無機質に転じてしまったきらいもあるが、装備や機能面での充実度は高い。中でもプロキシミティセンサーの付いたBOSEマルチメディアシステムは注目の装備だろう。スイッチに手を近づけると、センサーが感知してその項目を大きく画面に映し出す。ちょっと慣れが必要だが、面白い。

画像: クアトロポルテSのインテリア。新型BOSEマルチメディアシステムは、ユーザーのボタン操作をいち早く感知するプロキシミティセンサーを搭載。また、センターコンソールのボタンの配列が見直され、使い勝手が向上した。

クアトロポルテSのインテリア。新型BOSEマルチメディアシステムは、ユーザーのボタン操作をいち早く感知するプロキシミティセンサーを搭載。また、センターコンソールのボタンの配列が見直され、使い勝手が向上した。

内外装の変更もさることながら、最も気になるのはやはり、クアトロポルテSに積まれた赤いヘッドの4.7L V8だろう。青いヘッドの4.2Lをベースにボア×ストロークをともに拡大して+500cc、+30psの余裕を得た。

そのクアトロポルテSを駆って、自宅のガレージを出る。高速道路に乗るまでの一般道で、登場当初からは想像できないほど上品なマナーを身に着けたクアトロポルテに驚かされた。オートマチックモデルの追加登場時に比べても、さらに洗練された印象だ。

鼻先の軽いやんちゃな様子はまったく影をひそめ、落ち着いた軽快さで交差点をクリアする。相変わらず、硬めで節々の強さを感じるモダンな乗り味ではあるものの、排気量アップが功を奏してか冗長な感じがほとんどなくなり、クルマ全体が引き締まった。全長5mを超えるサルーンとは思えない身のこなしをみせる。

高速に乗り、入口料金所を抜け、豪快なエグゾーストをたなびかせて加速する。外で聞く分にはかなりの爆音だが、中では心地よく抑制された、つまりはボリュームを絞った轟音に聞こえる。それが、耳に心地いい。

高速域では、やはりドイツ車とはまるで違う気性が顔をのぞかせた。リアに重量配分の多いトランスアクスルモデルに比べればはるかに落ち着いた走りをみせるものの、それでも曲がりたがる性根は相変わらず。そのレベルは、曲がりたい最右翼のドイツ車、BMWをも上回るものだ。

大井松田の高速ワインディングをまるでスポーツカーのように駆け抜けた。エンジンフィールや音、軽やかなハンドリングなど、どれをとってもドライバーを喜ばす方向に振ってあり、後のさばきはドライバーに任せたといったスリルも同居している。これだけ豪奢で豪快な造りと機能を誇りながら、主はあくまでも人という点が実にイタリア車らしい。

4.2Lでも同じような経験をほとんど過不足なく得ることができる。ただし、4.7Lに比べると、ライドフィールの締まりが弱く、乗っている最中にクルマの輪郭が少しぼやけてしまう。価格差を考えると、見栄えは同じ4.2Lの存在理由がいまひとつ理解できなかった。

掛川市二の丸美術館に着いた。ここの有名なコレクションに江戸明治期のたばこ入れがある。実用の道具でありながら、芸術性の高い装飾性を帯びた装身具。ひとつひとつの部位は、その道の職人によってオーダーメイドされる。見事な細工に目を奪われ、マセラティに代表される高級スポーツブランドの4ドアサルーンと同じ世界観が見えた気がした。ともに問われるのは、主張とセンスのあるビスポークとその使いこなし方であろう。

クアトロポルテを駆って様になる粋人に、はたして何時になったらなれることやら。(文:西川 淳/写真:永元秀和)

マセラティ クアトロポルテS  主要諸元

●全長×全幅×全高:5110×1895×1440mm
●ホイールベース:3065mm
●車両重量:1880kg
●エンジン:V8 DOHC
●排気量:4700cc
●最高出力:317kW(430ps)/7000rpm
●最大トルク:490Nm/4750rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速度:280km/h
●0→100km/h加速:5.4秒
●車両価格:1595万円(2009年当時)

マセラティ クアトロポルテ  主要諸元

●全長×全幅×全高:5110×1895×1440mm
●ホイールベース:3065mm
●車両重量:1880kg
●エンジン:V8 DOHC
●排気量:4244cc
●最高出力:295kW(400ps)/7100rpm
●最大トルク:442Nm/4250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速度:270km/h
●0→100km/h加速:5.6秒
●車両価格:1460万円(2009年当時)

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