「温故知新」の逆というわけではないが、最新のプジョー車に乗りながら、古(いにしえ)のプジョー車に思いを馳せてみたい。今回は、プジョー 508SWに乗りながら、フランスの公用車にもなった大型高級車たち、を振りかえってみたい。(タイトル写真は、上が現行型の508SW、下が1975年に発表された604)

約40年ぶりに復活した大型高級車の604

画像: 1975年に誕生した604。絵に描いたようなシンプルな3ボックスセダンスタイルが、むしろ新鮮にも感じられる。

1975年に誕生した604。絵に描いたようなシンプルな3ボックスセダンスタイルが、むしろ新鮮にも感じられる。

この連載でも何度か書いたように、プジョーは決して庶民派ブランドではない。どちらかというとブルジョア(都市住民)的な品格のあるブランドなのだが、堅実さを信条にクルマづくりの営みを続けてきた歴史がある。

第二次世界大戦より前であれば上級クラスとして601をラインアップしていたものの、大戦で受けた損害もあって戦後は中級クラスの開発に専念。1960年代に入ると小型クラスへの拡張をはじめたのだが、上級クラスは手つかずのままだった。そんななか、1975年にようやく600番台の604が登場した。このクラスへの復帰は実に約40年ぶりである。

同時期のライバルであるルノー R30やシトロエン CXの駆動方式はFFで、ボディスタイルはいずれもファストバックだったのに対し、604はFRでクラシカルな3BOXセダンを採用。ふつうに、より高級車らしさがあった。開発段階で想定されていたライバルは同国モデルたちではなく、むしろ高級車の国際的代表格であるメルセデス・ベンツだったともいわれるモデルだ。

ただ、スタイリングからプジョーの信条である堅実さが現れているように見える。「大げさなフロントグリルなど無用だ」と言わんばかりに押し出しの強さが小さい。いかにも趣味の良いオーソドックスなスタイリングだったのである。

しかし、クルマの出来ばえは高級車らしい上質さを持ち、これも高く評価された部分だった。それでもプジョーは長い間このクラスで不在だったため、ブランドイメージを新たにつくり、市場を開拓する必要があった。さらに、この時期に襲った石油危機も不利に働いたといわれ、販売面で目覚ましい実績を残せなかった。

604のあとの600番台のモデルは、1989年にFFへ転換した605が、さらに1999年に後継となる607が登場している。しかし607が2010年でフェードアウトしたあとは、500番台の508が「最上級」を引き継いでいる。本来高級品づくりに長けているフランスのブランドでありながら、高級車分野で確固たる地位を築けずにいるのは、残念なことである。(文:武田 隆)

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