標準車とRSシリーズの中間に位置するSシリーズ
アウディファンであれば先刻ご承知のとおり、フォーリングスのスポーツモデルには「RS」と「S」の2タイプがある。このうち「RS」モデルはメルセデスの「AMG」、BMWの「M」といったいわゆるハイパフォーマンスモデルに相当するフラッグシップで、サーキット走行にも耐えうるハードな仕様となる。
一方の「S」モデルは長らくアウディだけが冠してきたグレード名で、パフォーマンス的にはRSモデルにはかなわないものの、その分、快適性や静粛性などに配慮しているのが特徴だ。いわば標準車とRSモデルの中間に位置するのがSモデルだった。
ここまで読み進んで「おや?」と思われた読者も少なくないだろう。そう、最近AMGには「65」以外に「35」「43」「53」といったモデルをラインナップしているが、これがまさにアウディでいうところのSモデル。BMWでいえばMパフォーマンスモデルがSモデルに相当する。
いずれも「日常性に配慮したスポーツモデル」というコンセプトは共通で、アウディに敬意を払ったわけではないだろうが、これらの多くがフルタイム4WDを採用しているのも興味深い共通点といえる。
こう説明すると、その乗り心地は標準車→Sモデル→RSモデルの順で悪化していくと思いがちだが、標準車とSモデルの関係はそれほどシンプルではないと私は捉えている。
おそらくサスペンションのバネ定数やダンパーの減衰率を調べれば、標準車よりもSモデルの方が「硬め」に設定されているのは間違いないだろう。おかげで多くのSモデルは標準車に比べてサスペンションストロークが短めだが、Sモデルは、この短いストロークの中で手際よくショックをうまく吸収しており、路面から伝わる振動の中に含まれる「不快成分」は驚くほど少ない。つまり、ガツンとはこないでフワッと受け止めてくれるのだ。
一方でスプリングとダンパーの設定は硬めだから走行中はボディが水平な姿勢に保たれる。この、「しなやかなのにフラット感が強い乗り心地」こそSモデルの真骨頂で、このため総合的な快適性という意味ではSモデルが標準車を上まわっていることが多いというのが、長年アウディを見守ってきた私なりの見解である。