トレーリングアーム式はリアの独立式を簡易に実現した
トレーリングアーム式は、主にリアサスペンションに用いられてきたサスペンション形式だ。基本的な構造は、ボディやメンバーの後ろに伸びる形で付けられた左右独立したアームという形になる。取り付け角度をもたせたセミトレーリング式と分ける意味でフルトレーリングアーム式と呼ばれることもある。アームの取付点を支点とし、アーム後端に付くタイヤが上下に動くようになっており、もちろん、スプリングとショックアブソーバーがその動きを規制する。
実は現代でもFF車のリアに良く用いられるトーションビーム式もトレーリングアームの一種であり、構造的に似ている。実はトレーリングアーム式はトーションビームに対して大きなメリットを持っているわけでなく、そのため姿を消したとも言えるのだ。言い換えれば姿を変えて生き残っているわけだ。双方を比べてみると、前者は左右をビームで連結されているのに対して、後者は独立して動くので、よりしなやかな乗り心地になるのが特徴となる。ただし、横剛性という意味で左右を連結する柔構造のビームを持つトーションビームに譲る。
トレーリングアーム式の動きの特徴としては、サスペンションが動いてもタイヤにキャンバーやトー、トレッドの変化が無いことだ。これで安定した走りを可能とする。また、上下動によってホイールベースが変化するという特徴もある。これはデメリットとも言えるがアームの後端がフロアより下にある場合には、突起を乗り越えた場合にタイヤが後退するように動くため、乗り心地を良くする一因となる。
いずれにしても4輪独立サスペンションが難しい時代でも、構成部品が少なく駆動輪でない場合にはシンプルに作れたため、昭和のFF車に多く用いられた。1970年に登場した日産チェリーなどが代表例だ。輸入車ではフランスのシトロエン 2CVのリアに用いられている。フロントのリーディングアーム式と前後サスペンションで共有するスプリングシリンダーの組合せで、独特の乗り味を見せた。
リアを中心に用いられると書いたが、これをフロントにしたのがスバル360だ。当時としては、革新的なパッケージを持ったこのクルマは、徹底的なスペース効率を追求した結果、この方式を用いたと言われる。これによって高評価を得たのは事実だが、フロントに採用した場合のキャスター変化が大きく直進安定性に影響を与えたことや、ブレーキング時のノーズダイブの大きさなどのデメリットが発生していたといわれる。(文:Webモーターマガジン編集部 飯嶋洋治)