細部まで行き届いたセンスを感じさせるデザイン
その外観は、いかにもボーイズレーサー的と言おうか、ヤンチャで、ほとばしるエネルギーを抑えることができないといった風情だ。
フロントバンパーの開口部は大型化され、ブラックアウトされたヘッドランプベゼルやフェンダーのエクステンションとともに顔つきを精悍に演出。一方、ドアミラーは赤く塗られ、ボディサイドには抜き文字の、やはり赤いストライプが入る。17インチアルミホイールの奥に顔を覗かせるブレンボ製4ポッドブレーキキャリパーも、やはり赤く塗られている。
そしてリアゲートにはブラック仕上げのスポイラーが備わり、ディフューザー形状のリアバンパー下部からは2本出しのテールパイプが顔を覗かせる。仕上げに、グリル中央など各部に新生アバルトの象徴であるサソリの紋章が堂々と主張するといった具合だ。
これだけ細々と手が入れられているにもかかわらず、見ての通りやり過ぎという感じは不思議とない。このあたりの絶妙なバランス感覚は、やはりイタリア生まれということなのだろう。たとえるなら、イタリアのスポーツアパレルブランドの「Kappa」あたりのウエアにも通じる、街でもオシャレに着れるスポーツテイストの演出は、さすがだ。
インテリアの仕立ても似たような傾向。すなわちドライバーの気分を昂らせて、とことん楽しませようという意識があふれている。専用のスポーツシートに身体を滑り込ませると、真正面に位置するステアリングには、やはりサソリのセンターマーク。その革巻きのリムやシフトノブには赤いステッチが入れられている。ペダル類や助手席足元に備え付けられたフットレストはアルミ製とされている。
ここまで盛り上げたからには、走りだって期待に応えてくれなければ困る。そこで心臓として与えられたのは、IHI製のターボチャージャーを装着した1.4L 16バルブエンジン。最高出力は155ps/5500rpm、最大トルクは201Nm/5000rpmだ。
ギガとの差は、6速MTのシフトレバーを1速に入れてクラッチを繋いだ瞬間に明らかになる。過給エンジンらしい、ほんの一瞬の遅れの先では、いかにも非力な印象は解消されていて、ひとたびタイヤが転がり出せば、もどかしさを感じることなく走り出せるのだ。
もっとも、ギガの1.4L 8バルブエンジンは最高出力77ps、最大トルク115Nmでしかなく、とくに最高出力など2倍にもなっているのだから、それも当然だろう。
速度計と回転計の間のマルチファンクションディスプレイを過給圧表示にしておくと、その目盛りが大きく動き出す2000rpmあたりから、差がますます顕著なものとなるのを実感できる。そして3000rpmを超えると、いよいよ本領発揮。頼もしいトルクを発生しながら6500rpmからのレッドゾーン直前までスムーズに吹け上がり、車重1240kgのボディを弾けるように加速させるのだ。
とは言え、トルクカーブ自体はきわめてフラットで、ピーキーなところは皆無。必要な時に欲しいだけのトルクを得ることができるし、ギアを迷ったら高い方を選べば間違いないというぐらいフレキシビリティに富む。あくまで扱いやすさが、その身上と言える。
ダッシュボード上の「SPORT BOOST」スイッチを押せば、ブースト圧が高まり、最大トルクを230Nmまで引き上げるが、それでもこの基本的な味つけは一緒だ。無論、3000rpm以上の領域で、とくに負荷が高めの状態でのハーフスロットルでの加速などといった状況では、数値以上に厚みを増したトルク感を堪能できるから、立ち上がりで勝負という時などにはとても有効には違いない。
いたずらに刺激性を煽るよりも、全域で扱いやすく、しかも速い。アバルト グランデプントのパワートレーンの狙いは、そうしたところのようだ。そしてフットワークも、やはり同じよな雰囲気に仕立てられている。
車高を15mm落とし、215/45R17サイズのタイヤに合わせてスプリンやダンパー、スタビライザーを強化したサスペンションは、街中では相応に硬めと感じさせる。
ただし、硬いとは言ってもガツンという直接的なショックを見舞うわけではなく、どちらかと言えば、スプリングが勝ったような揺すられ感が始終つきまとうといった方が正確な描写に近い。首都高速3号線のような、うねりやギャップが不連続に続く道はちょっと不快。轍で進路がチョロチョロすることもあって、あまり愉しいとは思えなかった。