過度にクイックでなく適度にゆるさを残したイタリアンテイスト
2008年は、マセラティにとって記録的な1年になった。全世界での販売台数は前年比でプラス17%の8536台を記録。日本においても前年比25%増の580台を販売するなど、世界的な景気後退が叫ばれる中において、なお好調なセールスを続けている。
マセラティ躍進のキーワードは「S」にあると、アフターセールス担当のジョージ・マウロ氏は語る。「4ドアのラグジュアリースポーツセダンのクアトロポルテでは、Sグレード比率は全体の14%、2ドアクーペのグラントゥーリズモでは19%と、ともにSの販売割合が伸びています。市場は我々にさらなるスポーツ性を求めているのです」
今回欧州で登場したクアトロポルテ スポーツGT Sは、先日日本にも上陸した新世代のクアトロポルテSをベースに、さらにスポーツ度を高めたモデルとなる。搭載する4.7L V8エンジンは、排気システムの見直しにより、最高出力はプラス10psの440psを発生。クアトロポルテSに対し最高速でプラス5km/hの285km/h、0→100km/h加速では0.3秒速い5.1秒というパフォーマンスを得ている。
イタリアのモデナで行われた試乗会。並んだクアトロポルテ スポーツGT Sはフロントで15mm、リアで11mmローダウンされ、その妖しい優雅さにさらに磨きがかけられている。フロントグリルは内側に湾曲した独自デザインを採用、ブラック化されたLEDポジションランプ内蔵のヘッドライトとともに、視覚から精悍なイメージを醸し出す。
室内に乗り込むと、張りのあるレザーがふんだんに使われたシートなど、特有の高級感が漂う。コラムから生えたシフトパドルがフェラーリモデルのように大型化されることを除けば、「スポーツGT S」という名から想像するストイックさはそこにはない。シート座面やステアリングホイールなど、ドライバーが触れる部分にはアルカンタラが使用され、しなやかに身体を包み込む。
キーを捻りエンジンを始動する。モデナから東へおよそ150km、世界遺産に登録されている街、ラヴェンナまでのアウトストラーダと一般道が今回の試乗コースだ。
クアトロポルテSには電子制御のダンパーコントロール「スカイフック」サスペンションが標準搭載されるが、このスポーツGT Sは20%硬められたシングルレートの通常ダンパーを採用。前245/35、後295/30という薄く大径の20インチタイヤを履くが、予想に反して突き上げ感は少なく、スッキリとした乗り味だ。
路面状態の悪い一般道では、さすがにスカイフックのような懐の深いいなしはできず、乗り心地の硬さを感じたが、それでもあくまでも紳士的なレベルという印象。ハンドル操作に対しても、過度にクイックでなく適度にゆるさを残しているところは、ドイツ車のスポーツモデルにはない特有のイタリアンテイストと言える。