そのデビュー以来、ポルシェ911の心臓にはフラット6が搭載され続けてきた。ここでのテーマは、人々を魅了し続けてきたポルシェ製水平対向6気筒エンジンが電動化の世で生き残れるのか、である。(Motor Magazine2021年11月号より)

時代の要請に合わせるためカレラ系もターボを採用した

ポルシェ911の心臓として1964年のデビュー以来、その車体の後端に収められ、世界中のファンから崇められてきたフラットシックス=水平対向6気筒エンジンは、実は他の多くのスポーツカーのようにエンジンありきで生み出されたものではない。むしろ911というクルマのパッケージングの一要素として理詰めで生み出されたエンジンだと言える。

小さな車体で4人乗りの室内を確保するにはRRレイアウトが最適であり、ではそこに積むエンジンはと考えれば、重心が低く駆動輪の直上に置かれるため十分なトラクションが得られる水平対向ユニットが真っ先に浮かび上がる。また、コンパクトであるがゆえに流麗なクーペフォルムが実現できることもポイント。もちろん、それはフォルクスワーゲン タイプ1=ビートルからポルシェ356までの流れを踏まえた、説明不要の当然の進化という意味が大きかったのは間違いない。

そうした誕生の経緯からすればポルシェのフラットシックスは、エンジン単体で見るよりも、911という1台のクルマとしてトータルで見て話をするべきだろう。フラットシックスと911は、まさに不可分の存在なのである。

本来ならば、911の歴史をデビュー時から辿っていきたいところだが、さすがに紙幅が足りない。そこで、今回は現行ラインナップに絞って見ていきたいと思う。

画像: 911ターボ/911ターボS。3.8L 水平対向6気筒ツインターボ「DKH」型エンジンは、ふたつの開口部を持つエアアウトレットをインタークーラー用に追加。これにより効率的なエアフローと吸気の冷却が可能となり、パワーアップが実現した。

911ターボ/911ターボS。3.8L 水平対向6気筒ツインターボ「DKH」型エンジンは、ふたつの開口部を持つエアアウトレットをインタークーラー用に追加。これにより効率的なエアフローと吸気の冷却が可能となり、パワーアップが実現した。

最新のポルシェ911カレラシリーズは、その心臓として水平対向6気筒3Lツインターボエンジンを搭載する。元々は代々、自然吸気エンジンを積んできたカレラ。CO2排出量低減など時代の要請に合わせるかたちで、先代タイプ991後期型よりターボエンジンの採用が始まった。

カレラとカレラSの排気量は同じ3L。ターボチャージャーの容量、セッティングによって出力差がつけられたこのエンジン、実際に試すまではとても不安だった。911ターボが別に存在するだけに、911カレラにはあくまでカレラらしいクルマであってほしい。果たしてそれが実現できているかは正直なところ、期待と不安が半々だったのである。

結果としてそのエンジンは、フラットシックスならではのビート感、サウンドに変化はなく、軽快なレスポンスを含めて紛うことなきカレラ用エンジンとして仕上がっていた。しかもタイプ992ではこのエンジン、さらにブラッシュアップが図られている。

新採用の電子制御ウエストゲートバルブ、左右対称レイアウトのターボチャージャー、ピエゾインジェクターは、いずれも一層のレスポンス向上に貢献するもので、これによってとくにベーシックなカレラでは、低回転域から極めて高いリニアリティを獲得した。これと比較するとカレラSはより高回転型の仕立てで、つまりタイプ991よりも差が明確になった。

つまり、どちらもちゃんと進化しており、かつカレラらしいエンジンに仕上がっていたのだ。この手腕は見事と言うほかない。

画像: 911カレラSが搭載するのは「DKK型」3L水平対向6気筒ツインターボエンジン。450ps/530Nmを発生。

911カレラSが搭載するのは「DKK型」3L水平対向6気筒ツインターボエンジン。450ps/530Nmを発生。

最新の911カレラシリーズの走りを語るなら、車体の方にも触れておくべきだろう。アルミ比率の向上などによりさらに軽く高剛性になったボディとワイド化されたトレッド、空力の向上などが相まって、そのフットワークはカレラですら最高出力385psにも達するその動力性能を、RRでも完全に手懐けてみせている。

もちろんカレラ4ならさらに高い安心感が得られるが、カレラに乗って「やはり4WDじゃないと」と思わせることは皆無と言っていい。しかも単に安定しているだけでなく、リアの半端ないトラクションによって脱兎の如くコーナーから立ち上がる、これぞ911という挙動がしっかり残っているのだから嬉しくなる。これなどは、まさにエンジンだけでなく、トータルパッケージングの勝利である。

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