奥深い味わいで魅了した珠玉の6.75L V8
英国製のV8といえば、もうひとつの名機がつい最近、その役目を終えたばかりである。前述したロールスロイス&ベントレーの時代に開発され、1970年代に入ってかの6.75Lへと排気量アップを果たしたL410ユニットだ。最後に搭載されたモデルは、2010年から10年間にわたりベントレーのフラッグシップとして君臨したミュルザンヌである。
筆者はこの6.75L V8 OHVをキャブ仕様のNAユニットから、インジェクション、ターボ、ツインターボ、そして最後の可変バルブタイミング仕様まで数多く試乗した経験があるが、いずれのエンジンも当代一級の速さと力強さ、そして心地良い静粛性を誇っていた。
ことにベントレー用のL410は常にノーズの先でたおやかに、けれどもはっきりとその存在感を示しながら回っており、踏めば踏むほど湯水の如く溢れるトルクに魅了されることもしばしばで、ドライバーズカーたるベントレーの面目躍如というものだった。
同じ年代のロールス・ロイスと乗り比べてみても、運転したいと思わせるという点でベントレーが不思議と優っていた。おそらく、エンジンスペックの違いがそう思わせたのだろう。
英国ブランドのV8は他にアストンマーティン用があるが、それはもはやメルセデスAMG製と言える。ベントレーL410が2020年まで生き延びた背景にもフォルクスワーゲンの技術力があった。ジャガー&ランドローバー用のV8の生産はケルン工場で行われている。
ドイツのプレミアムブランドがこぞって内燃機関を諦めると決断したとき、英国製V8エンジンの命運も尽きるのだろうか? もしくは、こちらが隠れ蓑になるのか。
早めに味わっておいた方が良さそうなことだけは、間違いない。(文:西川 淳/写真:井上雅行)
ジャガー Fタイプ Rクーペ主要諸元
●全長×全幅×全高:4470×1925×1315mm
●ホイールベース:2620mm
●車両重量:1840kg
●エンジン:V8 DOHCスーパーチャージャー
●総排気量:4999cc
●最高出力:423kW(575ps)/6500rpm
●最大トルク:700Nm/3500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・70L
●WLTCモード燃費:8.4km/L
●タイヤサイズ:前255/35R20、後295/30R20
●車両価格(税込):1590万円