世界的な脱内燃機関のトレンドにけん引される形で、英国車の大排気量・大出力V8ユニットたちもまた時代に見合った「変化」と「覚悟」が求められている。剛と柔が絶妙にバランスした奥深き味わいを楽しめる時間は、それほど長くはない。(Motor Magazine2021年11月号より)

奥深い味わいで魅了した珠玉の6.75L V8

英国製のV8といえば、もうひとつの名機がつい最近、その役目を終えたばかりである。前述したロールスロイス&ベントレーの時代に開発され、1970年代に入ってかの6.75Lへと排気量アップを果たしたL410ユニットだ。最後に搭載されたモデルは、2010年から10年間にわたりベントレーのフラッグシップとして君臨したミュルザンヌである。

筆者はこの6.75L V8 OHVをキャブ仕様のNAユニットから、インジェクション、ターボ、ツインターボ、そして最後の可変バルブタイミング仕様まで数多く試乗した経験があるが、いずれのエンジンも当代一級の速さと力強さ、そして心地良い静粛性を誇っていた。

ことにベントレー用のL410は常にノーズの先でたおやかに、けれどもはっきりとその存在感を示しながら回っており、踏めば踏むほど湯水の如く溢れるトルクに魅了されることもしばしばで、ドライバーズカーたるベントレーの面目躍如というものだった。

同じ年代のロールス・ロイスと乗り比べてみても、運転したいと思わせるという点でベントレーが不思議と優っていた。おそらく、エンジンスペックの違いがそう思わせたのだろう。

画像: 60年にわたり約3万6000台に搭載され続けてきたベントレーの「6と4分の3リットル」V8ユニット。最大トルクは1100Nmに達した。

60年にわたり約3万6000台に搭載され続けてきたベントレーの「6と4分の3リットル」V8ユニット。最大トルクは1100Nmに達した。

英国ブランドのV8は他にアストンマーティン用があるが、それはもはやメルセデスAMG製と言える。ベントレーL410が2020年まで生き延びた背景にもフォルクスワーゲンの技術力があった。ジャガー&ランドローバー用のV8の生産はケルン工場で行われている。

ドイツのプレミアムブランドがこぞって内燃機関を諦めると決断したとき、英国製V8エンジンの命運も尽きるのだろうか? もしくは、こちらが隠れ蓑になるのか。

早めに味わっておいた方が良さそうなことだけは、間違いない。(文:西川 淳/写真:井上雅行)

ジャガー Fタイプ Rクーペ主要諸元

●全長×全幅×全高:4470×1925×1315mm
●ホイールベース:2620mm
●車両重量:1840kg
●エンジン:V8 DOHCスーパーチャージャー
●総排気量:4999cc
●最高出力:423kW(575ps)/6500rpm
●最大トルク:700Nm/3500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・70L
●WLTCモード燃費:8.4km/L
●タイヤサイズ:前255/35R20、後295/30R20
●車両価格(税込):1590万円

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