本格的なSUVを作るというフォルクスワーゲンの意気込みが垣間見える
外装まわりの違いを説明したところで、改めてティグアンというクルマの成り立ちをおさらいしておこう。
横置きエンジンが基本で、駆動は4MOTION。となれば使われるプラットフォームはゴルフⅣと基本的に同じと考えていいのだが、ティグアンは単純なボディコンバージョンモデルなどではもちろんない。
フロントのアッパーボディ(外板ではなく骨格)はパサートと基本を同じくしており、フロントサスペンションはマクファーソンストラットながらサブフレームから専用設計となる。
4リンク式のリアサスペンションもやはりパサート系。具体的には4MOTIONのものを流用している。もちろんティグアンは重心高など根本が異なるわけで、セッティングは新たに行われているはずだが、コンポーネントの基本的な配列はゴルフよりもむしろパサートとの類似性が強い。
とは言っても、パサートも辿ればゴルフに行き着く。確かにそうである。ただ、ボディサイズも重量も大きく異なるゴルフとパサートでは、当然基本骨格から異なってくる。ティグアンはSUVとして相応にハードな使われ方も視野に入れているはずで、ゴルフよりもさらに余裕のあるパサートをベースの多くに選んだのだろう。
トランスミッションはデュアルクラッチ式DSGではなく、あえてトルクコンバーター式の6速ATとしているのは、ダイレクト感よりも強度やあたりの柔らかさ、耐久性を重視したためと思われる。シフトチェンジの素早さで定評のあるDSGだが、クラッチ制御が基本的に機械任せなのは確かで、これが極低速域のコントロールではギクシャク感となって現れる可能性がある。トルクの途切れが少ないトルコンATはそのあたりが鷹揚で、オフロードでのドライバビリティとコントロール性を上げることができる。フォルクスワーゲンはそういう判断のもとに6速ATを採用したのだと思う。
オフロード走行も本気モードでいける多彩な制御システム
こうやって搭載されたメカニズムを見て行くと、ティグアンはかなり本気でオフロードを考えていることがわかる。そういえば4駆システムの4MOTIONもこのモデルから第4世代に入っている。専用の電動ポンプを持つことにより、前後輪の回転差に依存しないトルク配分が可能になったのだ。発進/加速時は予め後輪へのトルク配分を大きくしたり、高速域では適宜後輪の駆動力を増減させることで直進安定性を高めるといったように、以前のパッシブ制御から大幅な進歩を遂げている。これはオフロード性能も含めた走行安定性全体の底上げに大きく寄与しているはずだ。
そして極めつけがセンターコンソールにあるオフロードスイッチだ。これを押すことによってトラクションコントロールやABS、スロットル/シフト制御などがタイヤの空転を抑え、より緻密なコントロールとなるオフロード走行モードに切り替わる。あわせてABSの機能を利用して一定速で坂を下るヒルディセントアシストが、スタンバイ状態となる。
残念ながら、まだティグアンで本格的なオフロード走行は体験していないが、反応の良くなった4MOTIONやブレーキ制御でLSD効果を出す制御システムなどにより、荒れ地も涼しい顔で走れてしまうのは想像に難くない。こうした芸当はゴルフがいかに進化しても特性として持っていないため不可能で、それだけでも存在意義は非常に大きいと言える。
クロスゴルフのようなお手軽SUVも作るフォルクスワーゲンだが、やる時はやる。そしてその気合いの入れ方、作り込みの凝りようは、やはりハンパじゃなかったという印象だ。
新型ゴルフGTIにつながるCAW型2.0TSIエンジン
ところで、ティグアンが搭載するエンジンはトラック&フィールド、スポーツ&スタイルともにCAWと呼ばれる新世代直列4気筒2.0TSIである。ゴルフⅥはひとまず2種類の1.4TSIで上陸したが、次世代のGTIはこの2Lエンジンがベースになる。
トラック&フィールドは170ps、スポーツ&スタイルは200psと差がつけられているが、これはマネージメントの違いによるもので、280Nmの最大トルクを1700rpmから発生するというディーゼル並みにフレキシブルな性格は変わらない。強いて違いをあげるなら、スポーツ&スタイルの方がより高回転まで伸びるタイプで、最大トルクの発生回転数も5000rpmまで(170ps仕様は4200rpm)となっていることだ。
この違いは走りにも感じられる。高速道路で思い切りアクセルを踏めるような場面では、より伸びが持続する現象として楽しめるのだが、実用域のトルク感やドライブフィールには驚くほど差が少ない。高性能版の200ps仕様でこれだけの柔軟性を持っているのは立派だが、それは既存のゴルフGTIなどでも感じられたこと。相応に重さのあるティグアンでは、むしろ低速域で厚みのあるトルクの恩恵を強く感じる傾向にあり、その意味で170psのトラック&フィールドでもまったく不自由なく、これで十分と感じられたのが面白かった。
さらにシャシの味付けも、トラック&フィールドとスポーツ&スタイルで大きな違いは見られない。メカニズム面であれほどオフロードでのタフネスや扱いやすさを追求していたにもかかわらず、足まわりのセッティングはオンロードを強く意識したもので、重心の高いSUVにありがちな姿勢変化を抑え、フラットなコーナリングフォームを実現している。徐々にコーナリング速度を上げ追い込んで行く走りにも見事に応えるあたりは、ゴルフGTIの走りを彷彿とさせたほどだ。
ただ、車高が高い上に動きを抑制しているため、乗り心地は相応にハードで、路面の凹凸などを正確に拾う。この傾向は235/55R17のタイヤを履くスポーツ&スタイルでより顕著だ。
トラック&フィールドの215/65R16(銘柄は同じBSのDUELER H/P)はいくぶんマイルドだが、ティグアンは車重が1640kgと重いこともあって、215サイズだと追い込んだ場合にグリップ不足を感じることもあった。235サイズになると接地感は十分で思った通りのラインをトレースするが、ファミリーカーとしては乗り心地が許容ギリギリの感じ。このあたり、性格分けが明確と言うか、ちょっと悩ましい部分ではある。
ゴルフ、パサートに続く新しい定番となる可能性も
最後に居住性について触れておこう。ティグアンに乗って最初に感じるのは着座位置の高さからくる視界の良さだ。SUVなのだから当たり前と思われそうだが、操作系のフィーリングや動きの軽快さはほぼゴルフと同等。
つまりありがちな重々しさとはまったく無縁なため、着座位置で改めてSUVであることを再認識するのである。これはインパネの造形がゴルフプラスと基本的に共通ということも多少関係しているのかも知れない。
リアシートもフロントより40mm高められていて開放的だし、アップライトな姿勢と深さのあるレッグルームで5人がゆったり過ごせる。ちなみにシートは前後ともフォルクスワーゲンらしいカッチリとした仕立てで、リアには左右6:4でスライド機構も備わる。
積載能力は5人乗車状態で470L。フロアはやや高めだが容積は十分大きいと言える。もちろんリアシートはシングルフォールドながら折り畳みが可能で、すべて畳めば1510Lにまで拡大可能。さらに助手席背もたれの水平倒しをできるなど、ユーティリティもよく考えられている。
こうした造りはもちろんスポーツ&スタイル、トラック&フィールドともに共通。仕様面で異なるのはシート形状やナビ&オーディオシステムが中心となる。スポーツ&スタイルでしか選べないものは電動パノラマスライディングルーフくらいだ。
以上の内容でトラック&フィールドが367万円、スポーツ&スタイルは422万円。小型SUVの始祖と呼ばれる国産モデルに対してはまだ開きがあるが、ティグアンは前記したように、オンロードとオフロード性能を高いレベルで両立させるため各所に凝った造りが施されている。
また、十分以上のトルクを極めて低い回転域から発生させるダウンサイジングターボの思想や、フォルクスワーゲンの例に漏れず、安全装備が充実していることを考え合わせると、バリューは相応に高い。
国産と輸入車を並列に比較することはあまりないかもしれないが、他ブランドの輸入SUVよりも価格が相当に手頃で、しかもサイズや乗り味が親しみやすく、何より走らせて楽しいという魅力に気づく人は、今後かなり増えていくはずだ。日本におけるフォルクスワーゲンの新しい定番モデルに育ちそうな可能性すら感じさせる。(文:石川芳雄/写真:村西一海)
フォルクスワーゲン ティグアン スポーツ&スタイル 主要諸元
●全長×全幅×全高:4430×1810×1710mm
●ホイールベース:2605mm
●車両重量:1640kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:147kW(200ps)/5100〜6000rpm
●最大トルク:280Nm/1700〜5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●10・15モード燃費:9.6km/L
●タイヤサイズ:235/55R17
●車両価格:422万円(2009年当時)