PHEVと独自色あふれるデザインでライバルに挑む
現時点で日本国内におけるDSオートモビルズのフラッグシップは、DセグメントSUVのDS7クロスバックである。しかし「プレミアムブランド」を標榜しているだけに、正統派のセダン系モデルがほしいところ。
そこへ登場したのがDS9だ。2021年4月にヨーロッパ市場で発売されたアッパーミドルクラスのラグジュアリーセダンは、日本市場への導入次期はまだ決まっていないが、ひと足早くドイツのフランクフルト近郊で試乗できたので、その時の印象をお伝えしたい。
試乗車はDS9 Eテンス225パフォーマンスライン+という仕様だ。システム最高出力が225psのPHEVで、内外装をスポーティに仕立てた仕様である。全長4934×全幅1855×全高1459mmのDS9は、全幅は若干狭いが、メルセデス・ベンツEクラスやBMW5シリーズ、アウディA6とほぼ同等である。2895mmのホイールベースもA6より30mm短いだけだ。
つまり、DS9はこれまでドイツ勢が覇権を握っていたアッパーミドルクラスのプレミアムカーの市場に戦いを挑む、フランスからの刺客なのである。
その大きな武器のひとつが電動化だ。現行プジョー508やDS7クロスバックにも用いられているPSAのEMP2プラットフォームを採用するDS9は、PHEVの「Eテンス」を中心にラインナップ。前輪駆動の「Eテンス225」と、リアアクスルにも電気モーターを備えた4WDの「Eテンス360 4×4」の2タイプが用意されている。
今回試乗したDS9 Eテンス225は、181psと300Nmを発生する1.6L直4ターボに、110psと320Nmを発生する電気モーターと8速ATを組み合わせ、システム合計で最高出力225ps、最大トルク360Nmを実現。駆動用バッテリーの容量は11.8kWhだ。
つまり、メカニズムは、プジョー508ハイブリッドと共通である。だが車両重量が1914kgと重いため、EV走行の航続距離はWLTCモードで47㎞と、508ハイブリッドより若干短い。
止まっていても走らせても、ドイツ勢とは一線を画す
もうひとつの武器はフランスらしさ、パリのセンスをふんだんに盛り込んだデザインである。エクステリアもインテリアも、隣国ドイツのライバルとは一線を画す、フランス的な華やかさとファッショナブルな雰囲気にあふれている。
実際にハンドルを握っても、乗り味はドイツ勢とは別ものだ。電気モーターを積極的に使い、発進時からとてもパワフルかつスムーズで、アクセルペダルを踏み込んでエンジンが始動してもスムーズそのもの。リニアでありつつ扱いやすさも兼ね備え、プレミアムカーのパワートレーンとして十分に合格点が与えられる。
アウトバーンでは、エンジンノイズや風切り音はしっかり抑えられていて、静粛性はとても高い。フランス車らしいしなやかな足まわりとロングホイールベースによるフラットな乗り心地や、優しく身体を包み込むシートで快適性も申し分ない。235/45ZR19というサイズのタイヤを履いているとは思えないほどだ。
だが150km/hを超えたあたりから、足まわりが路面からの入力をいなしきれなくなる感覚を覚えた。アウトバーンならではの超高速域は、やはりフランス車には専門外なのかもしれない。とはいえDS9のプレミアムカーとしての実力、そして独特なセンスによる所有欲を掻き立てる魅力は、ドイツのプレミアム御三家の競合モデルにも何ら引けを取っていない。
また今回は試乗できなかったが、DSの世界観を一層濃厚に盛り込まれたリヴォリ仕様や、360psのPHEVで4WDのEテンス360 4×4の走りも期待できそうだ。価格的にもドイツ系ライバルよりアフォーダブルになると考えられるだけに、DS9はプレミアムカーの新たなオルタナティブとして、日本でも注目を集めることになるだろう。(文:竹花寿実/写真:山本佳吾)
DS9 Eテンス225パフォーマンス+ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4934×1855×1459mm
●ホイールベース:2895mm
●車両重量:1914kg
●エンジン:直4DOHCターボ+モーター
●総排気量:1598cc
●最高出力:133kW(181ps)/6000rpm
●最大トルク:300Nm/3000rpm
●モーター最高出力:81kW(110ps)/2500rpm
●モーター最大トルク:320Nm
●システム総合最高出力:185kW(225ps)
●システム総合最大トルク:360Nm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・42L
●WLTCモード燃費:55.5-62.5km/L
●タイヤサイズ:235/45R19
●最高速度:240km/h
●0→100km/h加速:8.7秒