2009年、アウディR8に5.2L V10エンジンを搭載したハイパフォーマンスモデル「R8 5.2FSI クワトロ」が登場した。V8エンジン搭載のR8 4.2FSI クワトロも高性能スポーツカーとして高い人気を誇ったが、ついにV10エンジンを手に入れたR8はどこまで迫力を増したのか。その性能を試すために用意されたのは富士スピードウェイ本コース。ここでは日本上陸間もなく行われた国内試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年9月号より)

後ろから聞こえてくるV10らしいエンジンサウンド

V10モデルの試乗の舞台は富士スピードウェイが設定された。今回の試乗は、超高速域から進入する第一コーナーはリスクが高いため、直線のピットウォールが終わる手前にパイロンが立てられ、そこを通過するときは150km/h以下に落とす条件で始まった。

画像: 富士スピードウェイ本コースでV10エンジンを搭載したアウディR8の極限の走りを存分に楽しむことができたが、その迫力は普通に走っていても感じることができる。

富士スピードウェイ本コースでV10エンジンを搭載したアウディR8の極限の走りを存分に楽しむことができたが、その迫力は普通に走っていても感じることができる。

ピットエンドの信号が青に変わるのを確認し、本線に合流するためピットロードを加速していった。ここで感じたのはV8にはない迫力あるサウンドだ。V10モデルの方がより大きなエキゾーストノートで、吠えるような音質にも迫力があった。

タコメーターは8500rpmからゼブラゾーン、8700rpmからレッドゾーンが始まる。そして、スピードメーターはなんと350km/hまで刻まれている。カタログ上の最高速度は316km/hだが、少し下っているアウトバーンならもっと出てしまうから、メーターはこれくらい必要なのだろう。

第一コーナー、100R、ヘアピン、さらに最終コーナーに向けて登りのS字を抜けるまで、ちょっと速いペースでドライバーのウォーミングアップをした。この程度の走りではタイヤは路面を掴み、軽量ボディを軽快に運んでいく。フロントが軽いこともありターンインでのノーズの入りが良く、ダイレクトなステアリングフィールとあいまってスポーツカーをドライブしているという感覚を味わえる。ハンドルを切っていくときのクルマとの一体感は、ミッドシップならではのものがある。

最終コーナー手前から全開モードのドライビングにした。最終コーナーを立ち上がり重視のラインでアクセルペダルを床まで踏み込んだ。最終コーナーではパドルシフトでシフトダウンしたが、シフトレバーはDのままでも、8000rpmになるとアクセル全開のままでも自動シフトアップしてくれる。

3速から175km/hくらいで4速に入り、230km/hで5速に入る。200km/h以上の超ハイスピード領域になっても加速力の衰えが小さく、ぐんぐんスピードが伸びていくのが気持ちがいい。直線の途中にある規制パイロンが少し先に見えたころでは、スピードメーターの針は260km/hを指していた。

そこから当日規定の150km/hまでスピードを落とすが、剛性感溢れるブレーキペダルは踏めば踏むほど利きそうな感じで、あっという間に150km/hまで落ちた。セラミックブレーキは超高速域から制動を始め、かなりスピードが落ちてからもまだ制動能力に余裕がある。ハードなブレーキングを長くしてもペダルの踏力の変化がないため超高速走行時にも安心感が生まれる。

R8をR8らしく走らせるにはESPを使いこなすべきだ

次の周回では、シフトレバーの手前のSPORTスイッチを押してみた。まず感じたのはシフトしたときのクラッチのつながりが素早くなること。軽いショックを伴うから、滑りやすい路面では使わない方が良いだろう。サーキット走行でもシフト時間の短縮はできるかもしれないが、よりスムーズに走りたいボクとしては演出過剰と受け取れた。

画像: レーシングR8からインスピレーションを得たというR8 5.2FSI クワトロのインテリア。トランスミッションはV8モデル同様6速MTをベースにしたRトロニック、ギア比も同じだ。

レーシングR8からインスピレーションを得たというR8 5.2FSI クワトロのインテリア。トランスミッションはV8モデル同様6速MTをベースにしたRトロニック、ギア比も同じだ。

シフトレバーをDから横に動かしてMにすると、自動でシフトアップしなくなり、レッドゾーンに入るとフューエルカットが作動する。あくまでもドライバーが自分でシフトすることが条件になるわけだ。スポーツドライビングを楽しむ方法はいろいろある。自分でパドルシフトしているのだから、勝手にシフトアップしないでほしいというユーザーもいるだろう。そんなときにはMにすればいい。

ESPは「通常のオン」と「一回押し」と「長押しの完全オフ」の3モードある。サーキット試乗の場合、一回押しはいろいろ試せて、なおかつ破綻をきたさないから安心だ。ブレーキを残したままのターンインではリアが滑り出しノーズが入り込むのを助けてくれ、リアが出過ぎるとESPのブレーキ制御が作動して助けてくれる。タイトターンでは低いギアでアクセルペダルを深く踏み込むと、パワーオーバーステアになっていく。ここでもある程度以上になるとESPが作動する。

長押しでESPを完全オフにすると、小さな滑りまではなんとか自分でコントロールできそうだなという気がする。しかしもう少し大きな滑りになると、ミッドシップの特徴でもある速い回転のスピンモードに入ってしまい、リカバリーが難しくなる。ブレーキを残してターンインしリアが滑り出したところでアクセルペダルを深く踏み込んでも、今度はリアの駆動力が強過ぎてもっとリアが出そうになる。

これはクワトロの特性で、アクセルオンのアンダーステアを狙っても、トルク配分がそうなっていないから、立ち直らないのである。このあたりはV8も同じだった。R8をR8らしく走らせるためにはESPをカットしてはいけない。タイヤの限界を超えないように走れば、ESPがオンのままであろうとESPは作動しないから、邪魔にならないのだ。

究極のスポーツカーはESPが付いているという条件でサスペンションセッティングしたのではないかと思う。素早く向きを変える能力を備えつつも、過剰に動きそうになったときにはESPで止めてしまうのだ。

V10は、その音も走りも、迫力が増したのは間違いない。それが普通に走っていても感じられるところがいい。究極のパフォーマンスを選ぶならV10、究極の性能は必要ないがミッドシップスポーツモデルがいいというならV8という、ふたつの選択肢がR8にできた。(文:こもだきよし)

アウディR8 5.2FSI クワトロ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4445×1930×1250mm
●ホイールベース:2650mm
●車両重量:1690kg
●エンジン:V10DOHC
●排気量:5204cc
●最高出力:386kW(525ps)/8000rpm
●最大トルク:530Nm/6500rpm
●トランスミッション:6速AMT(Rトロニック)
●駆動方式:4WD
●タイヤサイズ:前235/35R19、後295/30R19
●0→100km/h加速:3.9秒
●最高速度:316km/h
●車両価格:1994万円(2009年当時)

This article is a sponsored article by
''.