シャイテクという思想で表現された新たな世界観
これは、BMWからの挑戦状である。いま、具現化できる最新技術をすべて盛り込み、BMWらしく創り上げられた新しいiXは、まるで未来から来たクルマのように感じられる。「えっ、何これ?」と、手を上げて驚くアイテム満載で、走り出す前から新時代の「駆けぬける歓び」が感じられる。
まず興味を引くのはエクステリアデザインだ。コンセプトモデルのまま出てしまったかのような独特なボディパネルは、これまでのBMWデザインとは異なるもの。長年のBMWユーザーにとっては、異質のものに感じるだろう。
顔つきは、縦に大きなキドニーグリルと高い位置にレイアウトされた薄いヘッドライトが特徴だ。iXはBEVなので、キドニーグリルは空気を取り入れるグリルではなく、単なるパネルである。とはいえその背後にはADAS(先進運転支援システム)のためのレーダーが仕込まれているし、近くで見れば雪が付着しても溶けるようにヒーターエレメント(熱線)も装備。上部にはウォッシャー機能付きのカメラ用レンズもある。
テールランプも薄型で、高い位置にレイアウトされている。これまで長らくL字型テールランプがBMWのアイデンティティだったが、それらのBMWデザインの法則を打ち破っているのだ。
さらに、こんなSUVシルエットなのに、空気抵抗係数値Cd:0.25というから驚く。流れるような形のセダン並みの小ささだ。
多少目に引っ掛かるデザインでないとすぐに飽きられてしまう、とデザイナーの永島譲二氏から聞いたことがある。デザインを始める時点では少なくとも年先を見据えているという。その意味ではiXは今から年先でもきっと新鮮に見えるデザインなのだろう。
試乗車はiX xDrive50である。前後モーターでのシステムトータル最高出力は385kW(523ps)であるが、フロント用は190kw(258)/8000rpm仕様、リア用は230kw(313ps)/8000rpm仕様と、BMWらしく後輪側の駆動力を高めている。最大トルクはフロント用が365Nm/0ー5000rpm、リア用が400Nm/0ー5000rpmだ。
ちなみにスカイラウンジパノラマガラスサンルーフを装備した試乗車の車両重量は、前軸重1230kg、後軸重1330kgで合計2560kgだ。駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は11.5kWhで、WLTCモードでの航続距離は650km。最高速度200km/h、0→100km/h加速は4.6秒をマークするというから、見かけによらず瞬足である。
豊富な機能についてだが、そのコンセプトが「シャイテク」だという。つまり、必要でない時は目立たないように最新技術が組み込まれているのだ。だから、車内には驚くほどスイッチ類が少ない。「凄い技術がたくさん隠されているから、それを探し出して使いこなせるようになるまでに熟練が必要かもしれない」と考えてしまうのは、僕が昭和生まれだからなのか?
パソコン、タブレット、スマホなどを取扱説明書など見なくてもスイスイと使いこなしているZ世代には問題ないのだろう。筆者は、iXと3日間ほど付き合ってその8割ぐらいは理解できた気分だが、本当はもっと奥深くて、まだ5割程度なのかもしれない。