トヨタはなぜ、水素エンジンでレースを戦うのか
トヨタ自動車は水素で走るカローラスポーツをレースカーに仕立てて、「ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook」に参戦する。2021年は4戦だったが、2022年は1年を通してシリーズで戦うことになる。
水素を使うクルマと言えば、燃料電池で発電し電気モーターで駆動するFCEVもあるが、、カローラスポーツに搭載される水素エンジンは技術的にはきわめてコンサバなメカニズムだ。
内燃機関としての基本構造を変えることなく、ガソリンの代わりに水素を燃焼させ、そのエネルギーでタイヤを駆動する。機構的には主に、燃料の供給系と噴射系を水素仕様に変更することになるという。
トヨタが掲げるキャッチフレーズは「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」だ。その精神は、創業者である豊田喜一郎が生前語っていた乗用車製造とオートレースにまつわる「哲学」にもつながる。
スーパー耐久レース参戦の先に見据えているのは、電気自動車とはまた違う「いいクルマ」たちが生き生きと走りまわる、サスティナブルなモータリゼーションの世界に他ならない。
「これから乗用車製造を物にせねばならない日本の自動車製造事業にとって、耐久性や性能試験のため、オートレースにおいて、その自動車の性能のありったけを発揮してみて、その優劣を争うことに改良進歩が行なわれ、モーターファンの興味を沸かすのである。単なる興味本位のレースではなく、日本の自動車製造業の発達に、必要欠くべからずものである」
──── 豊田喜一郎 著「オートレースと国際自動車工業」より
つくる、だけでなくはこぶ、つかう、まで「グリーン」な水素を目指して
ところで水素には「色」がある、ということをご存じだろうか。
それはあくまでイメージとしてつけられたカラーリングだが、水素はおおむね「グレー」「ブルー」「グリーン」という名を冠した3つの種類に分けられる。差別化の根本にあるのは、生成過程における「エコ度」だ。
「グレー」は、天然ガスなど化石燃料由来の副産物としての水素を指す。生成過程でCO2を排出するので、クリーンエネルギーとしての主張はやや控えめなものとなる。次にサスティナブルな「ブルー」も、生成過程でCO2を排出していることに変わりはない。
グレーとの違いはブルーの場合、排出されるCO2を手間暇かけて回収・利用・貯蔵(埋め立て)する技術(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:CCUS)化されていること。CO2削減の効果が期待できるという。
これに対してもっともクリーンな「グリーン」は、生成の過程でCO2を排出しない。太陽光発電など自然エネルギー由来のソースを使って水を電気分解する。つまり、製造段階での完全なカーボンニュートラル化を達成している。
言うまでもなくどうせ使うのなら、もっとも環境に優しい水素を選ぶのが正しい。だからこそレース活動においてもトヨタは、グリーン水素を使う。さらに次世代バイオ燃料を使ったトラックなどで運搬する体制まで新たに整える「エンド・ツー・エンド」でのカーボンニュートラル化を目指している。