電動化によってもたらされる果実が環境性能の向上というのはよく聞く話だが、フェラーリはそれをさらに「FUN」な方向で296GTBを開発したと言う。これはフェラーリV6時代の幕開け的なモデルだと言っていいだろう。(Motor Magazine 2022年5月号より)

ハイブリッドモデル専用のeマネッティーノを装備する

フェラーリの量産プラグインハイブリッド(PHEV)第一弾はシステム出力1000psを誇るSF90ストラダーレ/スパイダーだった。このクルマはたしかに素晴らしい完成度を持っていたが、3モーターという超豪華なシステム構成で、価格も5000万円超という特別なモデルであった。そしてマラネッロが送り出した量産PHEV第二弾が296GTBである。今回は、その国際試乗会に参加することができた。

開催地は、スペイン セビリア。その郊外にあるモンテブランコサーキットでの296GTBアセットフィオラノ仕様の試乗と、そこを起点にした296GTBの公道試乗というメニューが組まれていた。

このイベントは、2月中旬〜3月中旬まで約1カ月!(フェラーリの力の入れようがこれでもよくわかる)開催されていたこともあり、時期的なことも考えてイタリアよりも気候の温暖なこの地が選ばれたのだろう。そのお陰もあり、まだ春の遠い日本とは違い、アンダルシア地方で気持ち良くテストドライブができた。

画像: ピッコロ12と呼ばれるV6ツインターボエンジンは、120度のバンク角を持つのが特徴。その完成度は高く、296GTBを皮切りに今後のフェラーリモデルへの搭載も増えるはずだ。

ピッコロ12と呼ばれるV6ツインターボエンジンは、120度のバンク角を持つのが特徴。その完成度は高く、296GTBを皮切りに今後のフェラーリモデルへの搭載も増えるはずだ。

さて、まずは296GTBの詳細について記そう。フェラーリのネーミングの法則に則れば、「29」=2.9Lの排気量を持つ「6」=6気筒エンジン搭載したGTB=GTベルリネッタ(クーペ)ということになる。そしてこのモデルは、6気筒エンジン車でカバリーノランパンテ(跳ね馬エンブレム)が付けられた初めてのモデルということになる。

前述のとおり搭載するのは2.9L V型6気筒ツインターボエンジン。これがリアミッドに搭載される。このV6エンジンのバンク角は120度。このバンクの間に2基のターボを搭載することができるのもこのエンジンのメリットである。最高出力は、エンジン単体で663ps、1Lあたり221psを発生する。これはフェラーリではもっとも高出力だ。いやフェラーリばかりでなく、リッターあたりの出力はトップで他を寄せ付けない。

さらにこの296GTBは、リアに122kW(167ps)を発生するモーターを搭載するPHEVである。これによりトータル最高出力830ps/最大トルク740Nmを発生。8速DCTを組み合わせ、0→↓100km/h加速は3秒を切って2.9秒、最高速は330km/hとなる。ちなみにこの8速DCTは、先にデビューしたSFシリーズやローマなどにも採用されたものだ。

搭載するPHEV専用のeマネッティーノは、「eDrive」、「Hybrid」、「Performance」、「Qualify」の4つを用意する。

積まれるリチウムイオンバッテリー容量は、7.45kWhとなりモーターのみで走行するeモードでの航続距離は最大25km、最高速は135km/hに制限される。ちなみにリチウムイオンバッテリーは80個のセルで構成される。

パッケージオプションのアセットフィオラノ仕様には、296GTBからさらに軽量化されたパーツやサーキット走行に適したアジャスタブル マルチマチックショックアブソーバーなどを装着。また全体の重量を15kg軽量化できるLexan製リアスクリーンやミシュランスポーツカップ2Rをオプションで選ぶことができる。ちなみに標準装着タイヤはミシュランと共同開発したパイロットスポーツ4S K1となる。サイズはフロント245/35ZR20、リア305/35ZR20となる。

新しいフェラーリのデザインアイコンが随所に見られる

エクステリアには、新しいフェラーリのデザインアイコンが採用された。それは「ティートレイ」と呼ばれるフロントバンパー中央下に装着された空力エレメントやDRLと一体化されたエアインテーク、リアに装備された垂直にせり出すアクティブスポイラーなどである。

ほかにもテールライトが点灯すると両端に2本の光の線が現れたり、テールパイプのセンター1本出しなども特徴である。さらには1963年製の「250LM」を彷彿とさせるディテールも採用されている。たとえばリアのフェンダーの膨らみなどは、なるほどそう見える。

画像: ステアリングホイールはさまざまな機能を装備、さらに大型のパドルシフトも特徴。シートや内装には高級なイタリアンレザーを採用。

ステアリングホイールはさまざまな機能を装備、さらに大型のパドルシフトも特徴。シートや内装には高級なイタリアンレザーを採用。

インテリアでは、メーター類などは先にデビューしたフェラーリのPHEV、SFストラダーレと共通する部分が多く見られ、そして助手席にはパッセンジャーディスプレイが標準装備される。

試乗はまず、296GTBアセットフィオラノでモンテブランコサーキットを走った。走り出すまでは、このV6エンジンがフェラーリらしいかどうか気になったが、それは杞憂だった。エキゾーストノート、レスポンスなど実に官能的でまるで自然吸気12気筒エンジンで走っているかのようなフィーリングを味わわせてくれた。さらに高回転になると、あの甲高い高周波のフェラーリサウンドが聞こえてくる。気持ちは盛り上がり最高の気分だ。

フェラーリの開発者は、このエンジンを「ピッコロ12V(ミニV12)」と呼び、F163型エンジンファミリーの最初のエンジンだと言う。つまりこの296GTBを皮切りにV6フェラーリの新しい歴史が始まるということだ。

eマネッティーノを「Qualify」に変更すると究極のコーナリングマシンに変化する。ハンドル操作とボディの動きと身体の一体感がより強調されるのだ。こうしたフィーリングは、やはりモーターによるアシストがあるはずなのだがそれがまったく気にならない。逆にとても楽しいとさえ感じられた。エンジニアが「PHEV化でさらにファンなクルマになった」と言うがそれがよく理解できた。

車両制御デバイスの効果も絶大なのだが、それが前面に顔を出すこともないまま、最終コーナーを曲がり直線に向いて右足を床まで踏み込めば、またたく間に速度計が200km/hを軽く超え、さらに数字を刻み続けるのである。

ハンドルの入力に対する反応は、素晴らしく「打てば響く」とはまさにこのことなのだろう。そして8速DCTの変速も実にスムーズで、まるで運転が上手くなったように感じられるが、その裏側では電子制御デバイスがかなり活躍しているようである。

時には官能的なエンジン音。時にはスルスルとモーター走行

PHEVのメリットは、公道試乗でも感じられた。ワインディング路や高速道路ではV6エンジンの官能的なエキゾーストノートを聞きながら走り、そして街中では「eDrive」に切り替えスルスルと静かに走る。そう、これがPHEVのメリットで、制限速度の低い場所や静かに走りたい時はEV走行するということ。これこそ、新しいスポーツカーの楽しみ方であり、醍醐味だと思う。いつも爆音を響かせて・・・というのは過去のものになったということだ。

画像: PHEV化によって走るのが楽しい。「ファン」な方向性がさらに強調された。

PHEV化によって走るのが楽しい。「ファン」な方向性がさらに強調された。

最後に296GTBで公道を走っていたら、多くの人たちに写真を撮られたことも報告しておく。近くで見たかったのか、後続車は車間距離を詰め真後ろまで迫り、横に並んだクルマは写真を撮ってから追い抜いていった。街中では、子供たちが歩道から乗り出すように見ていたのも印象的だった。そういえば、やたらエンジン音を聞かせろ!とゼスチャーをしていたっけ。EV走行中なのでそれは無理な話なのだが・・・。

フェラーリの新しいステップの主役となる296GTBの価格は3710万円。V8のF8トリブートが3395万円なので315万円差だがPHEVのフェラーリは所有欲を満たしそして満足できる1台だと言えるだろう。(文:Motor Magazine編集部 千葉知充/写真:フェラーリ・ジャパン)

フェラーリ296GTB主要諸元

●全長×全幅×全高:4565×1958×1187mm
●ホイールベース:2600mm
●車両重量:1975kg(EU準拠)
●エンジン:V6DOHCツインターボ+モーター
●総排気量:2992c
●最高出力:610kW(830ps)/8000rpm
●最大トルク:740Nm/6250rpm
●モーター最高出力:122kW(167ps)
●モーター最大トルク:315Nm
●トランスミッション:8速DCT(F1DCT)
●駆動方式:MR
●燃料・タンク容量:プレミアム ・65L
●燃費:15.6km/L(EU準拠)
●タイヤサイズ:前245/35R20、後305/35R20
●車両価格:3710万円

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