一充電走行距離が405km。足元はミシュラン史上最高の低燃費タイヤ
シトロエン、プジョー、DSオートモビルズのパワートレーン戦略は明快で、B/CセグメントのCMPプラットフォームにはBEVとエンジン車、C/DセグメントのEMP2にはPHEVとエンジン車を用意。装備や車格に差をつけず、ユーザーが負担するコストも長い目で見れば安くなる設定で、好みやライフスタイルで選べるパワーオブチョイスというコンセプトに則っている。
今回試乗したシトロエンË-C4はCMPプラットフォームのBEVだ。ハードウェアを共有するプジョーe-208やDS3クロスバックE-TENSEはBセグメントだが、全長およびホイールベースが伸ばされたことでCセグメントとなり、後席スペースなどに余裕がある。
モーターやバッテリーはスペックも含めて共通だが、ボディが大きいゆえ車両重量も増えているので電費や航続距離は落ちるかと思いきや、逆に伸びているのが驚きだ。1500kgのプジョーe-208GTは一充電走行距離が380km、電力量消費率が149wh/kmなのに対してË-C4は1630kgで405km、140Wh/km(いずれもWLTCモード)。
装着されるタイヤはミシュラン史上最高の低燃費性能を誇るeプライマシーであり、しかも195/60R18という特殊なサイズ。大径でルックスに優れるが、細いため転がり抵抗は少ない。
また、優雅で伸びやかなルーフラインは空力性能も良さそうだ。そういった物理的な優位性に加え、パワートレーンは制御やサーマルマネージメントをアップデートして効率を高めている。それで車両重量が増えても電費と航続距離が伸びているのだ。
モーターならではの加速感でドライバビリティも秀逸
インテリアはエンジン車と共通で操作に戸惑うことはない。小さなシフトセレクターを指先で操作してDレンジを選択すればË-C4はスーッと滑らかに走り出す。ハイパフォーマンスBEVほどの強烈な加速感はないものの、それでも電気モーターならではのレスポンスの良さとトルクの太さがあり、制御も熟成されてきているのでドライバビリティは秀逸だ。
回生の強さは2段階でBレンジに切り替えるとエンジン車で低めのギアにシフトダウンしたぐらいの減速感になる。ワンペダルドライブほどの強さではないが、ペダルの踏み替え頻度が下がって快適だ。
乗り心地はかつてのハイドロニューマティックサスペンションのシトロエンを彷彿とさせるソフトタッチなものだ。60扁平でエアボリュームの多いタイヤ、ストロークがたっぷりととられたサスペンションによって路面の細かな凹凸から大入力まで優しく受け止める。
それでいて高速域ではフラット感があるのが絶妙。ロングホイールベースであることも効いていてピッチングが抑えられ、コンパクトカーとしては落ち着いたクルージングが楽しめる。ロードノイズは低く抑えられ、静粛性はクラストップレベルだ。
ハンドリングはさすがに俊敏というわけにはいかず、タイヤサイズから想像できるとおりに穏やかではある。しかしながら、長いストロークゆえによく動き、ダンピングがしっかりとしたサスペンションを生かして上手に荷重移動してあげると、思いのほか粘り腰でタイヤのグリップ力を引き出せる。わかりやすいスポーティ感はないけれど、独特のフィーリングで意外なほど高い運動性能を引き出せるのもシトロエンらしい。
50kWhのバッテリー容量は必要十分をちょっと超えるぐらいでちょうどいい。35.5kWhのホンダeやマツダMX-30は明確にシティコミューターといったところで、高速道路のロングドライブでは頻繁に充電しなければならないが、Ë-C4はさほど不便を感じない。
これ以上のバッテリー容量を望むと車両重量が重くなって電費が落ちてくるうえ、充電にも時間がかかる。もちろん車両価格にも跳ね返るだろう。いまのバッテリー技術のなかでは絶妙なバランスを見せるモデルなのだ。(文:石井昌道/写真:永元秀和)
シトロエンË-C4 シャイン主要諸元
●全長×全幅×全高:4375×1800×1530mm
●ホイールベース:2665mm
●車両重量:1630kg
●モーター:交流同期電動機
●モーター最高出力:100kW(136ps)/5500rpm
●モーター最大トルク:260Nm/300-3674rpm
●バッテリー総電力量:50kWh
●WLTCモード航続距離:405km
●駆動方式:FWD
●タイヤサイズ:195/60R18
●車両価格(税込):465万円