エンジンカバーに入れられたトライデントは誇りの証
エクステリアのもうひとつの見所が、エンジンカバーに描かれた巨大なトライデント(オプション)だ。クーペ版ではリアウインドウ越しにエンジンが見える部分だが、スパイダー化に伴い、これがフラットなボディパネルに置き換えられた。
これによって生まれた「空白地帯」を埋める目的でトライデントが描かれることになったのだが、ブランドロゴをこれだけ大きなサイズで表現するのは前代未聞のはず。それだけマセラティが自分たちのヘリテージに誇りを抱いている証拠ともいえる。
インテリアでは、レザーに細かな切れ目を入れ、これを通じてその内側にある生地を見せるという手の込んだシート地が引き続き採用されるが、ボディカラーと同じアクアマリンの名が与えられたシートカラーでは、ホワイトのレザーの合間からエメラルドグリーンの生地が垣間見えるという実に華やかなデザインとなる。
同じくインテリアでは、センタートンネル上のドライビングモード切り替えダイヤルが液晶ディスプレイ付きの新意匠に改められたことが注目される。ちなみに、2023年モデルからはクーペにも同じダイヤルが採用されるそうだ。
MC20チェロの基本メカニズムはそのクーペ版と変わらない。すなわち、ボディの骨格には強固なカーボンコンポジットモノコックを採用。キャビン後方に搭載された排気量3Lの90度V6ツインターボエンジンは、マセラティツインコンバスチョンと呼ばれる最新のF1パワーユニットと同じ副燃焼室方式を採用し、630psと730Nmを発生。ここで生み出されたパワーが8速DCTに導かれて後輪を駆動するというレイアウトを用いている。
前後ともダブルウイッシュボーン式となるサスペンションは、そのチューニングを含めてクーペ版と同じだが、電子制御式リミテッドスリップデフのEデフは、よりリラックスしたドライビングを可能にするため、ロッキングファクターなどをやや低めに設定しているとの説明を受けた。
いっぽう、チェロはリトラクタブルハードトップのメカニズムを追加したほか、オープン化に伴ってそのままでは剛性が低下する恐れがあったカーボンモノコックに追加で補強を行った結果、車重が
増加したほか、空気抵抗が2%ほど増加。この影響により、0→100km/h加速は2.9秒以下から約3.0秒へ、最高速は325km/h以上から320km/h以上に微妙に変化した。もっとも、日常的な範囲でいえば性能差はまったくないと言っていい。
スーパースポーツカーのスパイダー版は北米などで人気があり、設定すれば「自然と売れる」という構図がなきにしもあらずだった。このため、どのブランドも必ずスパイダーをラインナップしてきたものの、「スパイダー版の独自性」を強く主張するモデルはあまりなかったような気がする。
しかし、マセラティはMC20チェロに「スパイダーの魅力を引き立てる」ための、独自の新機軸を盛り込んできた。しかも、彼らの姿勢は「新機能を盛り込んで、ハイおしまい」ではなく、乗る人たちの感情やライフスタイルに踏み込んだクルマ作りが実践されているように思うのだ。
この点にスーパースポーツカーメーカーと、グランドツーリスモを作り続けてきたマセラティとの大きな違いが現れているのではないだろうか?新たな道を歩み続けるマセラティの今後が楽しみだ。(文:大谷達也)