MC20が搭載するのは、100%マセラティ社内で開発、生産されるネットゥーノエンジンである。ここではそのサーキット試乗とともに、チーフエンジニアやエンジン開発担当者から直接話を聞く機会を得た。(Motor Magazine2022年8月号より)

グランツーリスモの味わいを大切に

こうした足まわりの設定について、MC20のチーフエンジニアのジャンルカ・ディ・オト氏は次のように説明した。

画像: カーボンモノコックはダラーラで設計され、アドラーグループで生産。その成形方式はモールドを用いるRTMではなく、F1マシンと同じカーボンファイバーを1枚1枚重ね合わせるドライカーボン(プリプレグ)方式で行われる。

カーボンモノコックはダラーラで設計され、アドラーグループで生産。その成形方式はモールドを用いるRTMではなく、F1マシンと同じカーボンファイバーを1枚1枚重ね合わせるドライカーボン(プリプレグ)方式で行われる。

「私たちはMC20のボディの動きが大きいとは捉えていませんが、快適性を追求したのは事実です。なぜなら、他のスーパースポーツカーとは異なり、マセラティらしいグランドツーリスモの味わいをMC20に盛り込んだからです」

MC20のカーボンモノコックについても新たな事実が判明した。その製法は、量産向きのモールド成型ではなく、カーボンファイバーを1枚1枚重ね合わせていくプリプレグ(ドライカーボン)方式を用いているという。

これは、量産車としては極めて異例なことだ。また、ルーフ部分はモノコック本体(バスタブ部分)と強固に接合されており、ボディ全体の剛性向上に寄与している模様。スパイダー版のMC20チェロでモノコックの補強が必要になったのは、チェロではルーフ部分が剛性の強化に貢献しないからだ。

すべてをマセラティ社内で開発・生産するネットゥーノ

エンジン開発を担当したアントニオ・エスポージト氏の話はさらに興味深かった。彼が見せてくれたパイプ状の金属製部品は、ネットゥーノエンジンの肝である副燃焼室を構成するパーツで、その一方の端には点火プラグが、もう一方の端には噴射孔が開けられている。

画像: マセラティ社内で一から開発、そして生産までを行うネットゥーノエンジン。MC20から搭載されている。

マセラティ社内で一から開発、そして生産までを行うネットゥーノエンジン。MC20から搭載されている。

そして主燃焼室の圧縮行程で混合気が副燃焼室内に吸い込まれると、点火プラグによって燃焼が開始。急激に膨張した副燃焼室内の混合気は超高温となって主燃焼室に吹き出し、超高速燃焼を実現するのだという。

マセラティ ツイン コンバスチョン(MTC)と呼ばれるこの副燃焼室方式は、最新のF1パワーユニットにも採用され、燃費効率とパフォーマンスを大幅に向上させる究極のテクノロジーとして認知されている。

もっとも、同方式を採用したロードカーはMC20が世界初。それだけ難易度が高い技術なので、「どこかのエンジニアリング会社から、その技術を購入したのだろう」と思い込んでいた。ところが実際には、MTCはマセラティがおよそ5年間の歳月を費やして独自に開発したもので、MC20C用のネットゥーノエンジンも、モデナの本社工場でマセラティ自身の手によってアッセンブリーされていることが明らかになった。

「すべてマセラティ社内で開発され、生産しています」とエスポージト氏。「以前は他からエンジン供給を受けていましたが、マセラティはエンジンを自社開発する技術力を備えていると広く知ってもらうことが重要でした。そうすることで、MC20以外のモデルもバリューが高まると考えたのです」

マセラティブランドのイメージリーダーになるべくして誕生したMC20。既存のスーパースポーツカーと一線を画している理由は、この点にあったと見て間違いない。(文:大谷達也/写真:マセラティS.p.A.)

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