メルセデス・ベンツは再び「量より質」を目指していくのか?
1990年代後半、世界の自動車メーカーは合従連衡を始め、年間生産台数を増大して、いわゆる「400万台クラブ」への仲間入りを目指した。メルセデス・ベンツも例外ではなく、アメリカのビッグ3のひとつであったクライスラーを1998年に買収して「ダイムラー・クライスラー」となった。紆余曲折の末、この関係は2007年に終了したのだが。
それまではDセグメント以上の乗用車しか生産してこなかったメルセデス・ベンツは、FFコンパクトカーのAクラスを登場させ、現在の4世代めではプラットフォームを共有するFFベースのコンパクトモデルは、Aクラス(ハッチバック/セダン)、Bクラス、CLA(セダン/シューティングブレーク)、GLA、そしてGLBと7車種で展開している。
日本市場でも、初めて購入するメルセデスとして最適なAクラス ファミリーのモデルは今も人気を集めている。2021年の販売台数では、Aクラス(ハッチバック/セダン)が5990台で10位、GLBが5812台で11位、CLA(セダン/シューティングブレーク)が5072台で15位、GLAが4067台で20位と、トップ20にランクインしている。
だが、ドイツの経済誌によればメルセデス・ベンツはAクラスとBクラスを2025年には生産終了するらしい。AクラスとBクラスは、現行型が最終モデルとなるようだ。ただし次世代モデルでもGLAやGLBといったSUVは人気があるため継続生産される。要するに、エントリーモデルとしてメルセデス・ベンツの間口を広げることには成功したが、収益性の低いモデルゆえ役目を終え、今後は収益性の高いモデルにシフトしていくようだ。
それを示すかのように、2022年5月にメルセデス・ベンツは超高級車ブランド「ミトス(MYTHOS)」を立ち上げると発表した。メルセデス・ベンツには既に「メルセデス・マイバッハ」という高級車のサブブランドがあるが、これの上をいくモデルになるという。おそらくは、フェラーリの限定モデル シリーズ「イコーナ」のような、ワンオフに近い超高級コレクターズアイテムとなるモデルを生産するのだろう。
ちなみに、かつてピニンファリーナがフェラーリ テスタロッサをベースに同名の「ミトス」というスーパー カスタマイズドカーを発表したが、名称的には問題はなかったのだろうか。それはともかく、あちこちのサイトに登場するスクープ画像などから推察すると、ミトス ブランド最初のモデルは、メルセデスAMG SLをベースにしたものになりそうだ。
2039年のカーボンニュートラルの実現に向けてEV化を加速させる一方、再び高級化路線へとウエイトをシフトしたメルセデス・ベンツ。そして最終的には、ミトスもEV化されるに違いない。これから展開されるであろうメルセデス・ベンツの「量より質」への転換は、ジャーマンスリーの他2ブランドをはじめ、多くのプレミアムブランドにも影響を与えることだろう。まずは、日本市場での動きを注視しておきたい。