「ぶつからない」とか「つながる」ためには「守られている」ことが大前提
クルマの技術革新は日々、驚くほどの速さで進みつつある。
業界的にはいわゆる「CASE(コネクティッド/オートノマス(自動運転)/シェアリング/電動化)」というキーワードで語られる流れだ。もっともより一般的には、「ぶつからない」とか「つながる」といったキャッチコピーのほうが身近でわかりやすいかもしれない。
どちらにしても、便利で安全で快適な新しい世代のクルマたちの台頭はユーザーとしては概ねウエルカム。自動車業界が迎えつつある「100年に一度の大変革期」を、存分に楽しみたいものだ。
だが一方で、そこにはまた時代の変化に伴う新しい課題が生まれつつあることも、覚えておいた方がいい。たとえば「IT化」が進むことで、同時に求められるのがセキュリティの強化だ。
とくに外部とつながることが当たり前になっているクルマの場合は、サイバー攻撃などによるリスクは確実に増える。エンターテインメント系の実害でも十分困ったものだが、それがADASの制御に関わる障害となった場合は即、安全や安心に影響を及ぼしかねない。
セキュリティによる制約が、自動車整備の効率にも影響を及ぼす
もちろん、そうした問題に対して、自動車メーカーは万全の体制を構築していることだろう。実際、グローバルでの公的な基準の運用も進んでいる。
自動車のIT面でのセキュリティに関しては、2020年6月に国連組織の「自動車規準調和世界フォーラム(WP29)」において、「CS(サイバーセキュリティ)/SU(ソフトウエアアップデート)規則)が採択された。日本でもサイバーセキュリティ対策に関する規定は、2022年7月以降に生産される新型車(継続生産車は2026年7月1日)から適用が始まる。
ただ、強化されるセキュリティによって、新たな対応が求められている業態もある。そのひとつが、自動車整備を行う事業だ。一部の車両ではサイバーセキュリティがかけられたことによって、整備プロセスの中で重要な診断作業を実行する際に診断機能へのアクセス制限がかけられているケースが増えつつある。
具体的には、「ぶつからない」に代表されるADAS(先進運転支援システム)の正確な動作を保証するために必要なエーミングなどの補正作業にも、影響を及ぼす可能性があるという。場合によっては、エンジンオイルを交換後に行うサービスインターバルリセットなども、不可能になりかねない。
包括的な診断に適時、適正に対応してくれるかどうか、が重要だ
つまり整備現場としてはそうした作業を実施するために、車両の診断機能へのアクセス権を取得する必要が出てくるということ。世界有数の自動車関連サプライヤーであり、整備機器の開発でも世界をリードするボッシュは将来的に、あらゆる車両について総合的に診断機能を利用するためには、セキュリティアクセス権限が不可欠である、と考えている。
もっとも、アクセス権を得るためにはその都度、自動車メーカーごとに契約することが必要だ。事業体側としては手間暇もそれなりにかかる。経費関連での業務への影響も、けっして小さいものではなさそうだ。
そうした変化に対応するために、たとえばボッシュでは、各自動車メーカーのセキュリティアクセス権を一元管理することが可能なソフトウェア「SDA(セキュア ダイアグノシス アクセス)」を販売している。
ボッシュのSDAは現状、フォルクスワーゲングループやステランティスグループの中のFCA系ブランド、メルセデス・ベンツの現行車両へのアクセスが可能となり、診断作業や整備効率の向上につながっているという。他の自動車メーカーとの連携強化も随時、進む予定だ。
整備を依頼する自動車ユーザーとしては、そうした包括的な診断機能にすばやく適正に対応してくれるかどうかは今後、整備業者を選ぶ際の重要なメルクマールのひとつになりそうだ。それは単なる整備作業だけでなく、事故修理や車検などについても影響を及ぼす可能性があることを、覚えておいたほうがいいかもしれない。