軽さを武器にした990Sコーナリングがさらに楽しい
990kgという1トンを下回る車両重量は、NDをさらに細かいところまで軽量化した結果だ。この990Sのデビューと同時にNDのマイナーチェンジ版の全車にKPC(キネマティックポスチャーコントロール)が標準で付いたことで、ロードスターはライトウエイトスポーツカーとして極上のハンドリングカーとなった。
KPCは横Gが0.3G以上のコーナリング中に効いていて、内側のサスペンションが伸びてボディのロール角が大きくなってしまうのを抑えることができる。ボッシュのESP9のブレーキ作動の一部を使っており、原理は内側のタイヤに緩くブレーキをかけるのだ。
その強さは0.1MPa程度。アンダーステアやオーバーステアを止めるときには5MPaとか10MPaだというから、いかに緩いブレーキかわかるだろう。
これによりコーナー内側の後輪が後ろに引かれる力が働き、サスペンションのトレーリングアームの(仮想の)取り付け点が前方の上方にあるので、それを引き下げるように働きロール(マツダではこのジャッキアップをヒーブと呼ぶ)を抑えるというわけだ。
もしKPCがなければどれくらいロールするのかを試したければ、運転席右膝の前にあるDSC(横滑り防止装置)のキャンセルスイッチを押せばいい。DSCも作動しなくなるが、KPCも作動せずに、明確にロール角が大きくなることが体験できる。
サーキット走行時には「DSCをオフにしたいが、KPCは作動して欲しい」と思うのだが残念ながらこれは叶わない。なんとかDSCスイッチの長押しや2度押しとかでできるようにして欲しいと思うのは筆者だけではないと思う。それほどKPCが副作用なく良い働きをしているということだ。
0.3G以上のコーナリングで後輪にブレーキを使うとブレーキパッドの摩耗が心配になるが、その圧力は極めて小さいので問題ないという。実際にニュルブルクリンクで300ラップ(6250km)走ったそうだが、パッドの摩耗はまったく問題なかったとKPCを開発した梅津大輔氏から聞いた。
箱根のワインディングロードではこれまでひらりひらりとコーナリングしていたのだが、サスペンションはソフトでちゃんとストロークしてくれたままで、ロール角が小さくなってコーナリングが安定しさらに楽しくなった。その恩恵をもっとも感じるのはS字コーナーで、ロールの揺り戻しを待たずに次の操作ができるから軽快感が増した。
ロードスターを使って毎年プレス対抗の耐久レースに出場させてもらっているが、こうした時でもロードスターのドライビングの楽しさを味わっている。それはドライビングセオリーどおりに動いてくれるからだ。変なクセがなく、タイヤのグリップ限界を超える辺りの車両挙動が読めるのだ。
コーナーに向かってスピードを落とすためのブレーキングの最後に緩いブレーキを使って前荷重にしてハンドルの効きを良くするように仕掛けると、クルマはクリッピングポイントに向かってノーズをインに向けてくれる。荷重が外側のタイヤに移ったところでアクセルペダルを踏んでいくと、前後輪のグリップバランスが取れてアンダーステアが出ずに立ち上がることができる。毎コーナーこれができると嬉しくなるし、ドライビングがさらに楽しくなる。
NDからエンジンは1.5L直列4気筒になった。132ps/7000rpm、152Nm/4500rpmで決してハイパワーとはいえないが、約1トンの車重を走らせるのには必要にして十分なのだ。サーキットでもそれぞれのドライバーの技量に合わせて安全に走れるところが良い。このパワーでもベテランドライバーが究極の走りをするのはそれなりに難しく、そこが面白いのである。
今回はロードスター最軽量の990Sで走ったが、個人的にはノーマルのロードスターの方がしっくりきている。車両重量の違いは小さいが約1000kgの中の30kgなので影響はあるだろう。ノーマルは乗り心地がしっとりした感じだし、コーナリング時の路面のうねりで揺すられて上下動する時にも穏やかに感じる。
ぜひロードスターの6速マニュアルトランスミッションでクルマの運転の原点を多くの方に味わってもらいたい。