S8はスポーツ志向だが最上級車の品格は健在だ
もう1台のS8は、エンジンをかけた瞬間からスポーティモデルであることを強く意識させる。エキゾーストノイズがA8より明らかに勇ましいのだが、かといってフラッグシップサルーンの品位を汚すほどうるさかったり下品だったりはしないのでご安心を。アイドリング時の鼓動がA8より力強い点もS8の特色だ。
乗り心地はA8よりもソリッド。後席のクッションもA8とは違って前席と変わらない硬さだが、それでもサルーンとして使うことに躊躇を覚えない快適性だ。この辺の二面性というかスポーツサルーンとしての奥深さが、S8のもうひとつの特徴といえる。
しかし、快適性に対するほんのわずかな犠牲が、ワインディングロードではこの上ない喜びをもたらしてくれる。ダイナミックモードを選べばコーナリング中のロールは最小限に留められ、レスポンスのいいハンドリングを味わえる。
そんなときに、腰高感を一切感じさせることなく、むしろコーナリングのたびに車高が沈み込んでいくかのような安定感を示すのがアウディならではの美点。したがって、ある程度までペースを上げたときに「ああ、これ以上は楽しくないだろうな」とサジを投げるのではなく、「もっとコーナリングを楽しみたい」と思わせてくれるのだ。
BMWで例えるなら、(先代の)M760iよりもアルピナB7に近いといえば、わかっていただけるだろうか。
こうした基本的なキャラクターはA8にも共通するが、ハンドリングのレスポンスは、さすがにS8に一歩及ばない。つまり、快適性を重視するか、コーナリングの喜びを求めるかで、チョイスは分かれるはず。ちなみに、どちらを選ぶか問われれば、個人的にはA8のパフォーマンスで十分以上と感じたので、快適性に優れるA8を選ぶことだろう。
昨今はSUVやミニバンをサルーン代わりに使うケースが少なくないが、やはり本物のセダンには風格と格式の点でかなわない。積極的な走りを楽しめるところも、背が高いモデルには求め得ない魅力だ。端正なスタイリングと心地いいスポーツ性を備えたA8とS8には、そうしたラグジュアリーサルーンの本質がギッシリと詰まっているように思う。(文:大谷達也/写真:永元秀和)
アウディ A8 60TFSIクワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高:5190×1945×1470mm
●ホイールベース:3000mm
●車両重量:2100kg
●エンジン:V8 DOHCツインターボ+モーター
●総排気量:3996cc
●最高出力:338kW(460ps)/5500rpm
●最大トルク:660Nm(67.3kgm)/1850-4500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・82L
●WLTCモード燃費:8.0km/L
●タイヤサイズ:265/40R20
●車両価格(税込):1635万円
アウディ S8 主要諸元
●全長×全幅×全高:5190×1945×1475mm
●ホイールベース:3000mm
●車両重量:2260kg
●エンジン:V8 DOHCツインターボ+モーター
●総排気量:3996cc
●最高出力:420kW(570ps)/6000rpm
●最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2050-4500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・82L
●WLTCモード燃費:8.2km/L
●タイヤサイズ:265/35R21
●車両価格(税込):2050万円