ホンダの技術の粋を集めた!
ZC型エンジンが一世を風靡
バラードスポーツCR-X(以下、CR-X)にZC型DOHC16バルブエンジンが搭載されたのは1984(昭和59)年11月のことだ。ホンダの市販車としては1970(昭和45)年まで販売していたS800のAS800E型以来のDOHCエンジンということになる。このエンジンの搭載でCR-XのFFスポーツカーとしての評価は定まったといえるだろう。
ZC型エンジンのベースとなったのは、1.5iに搭載されていたEW型12バルブエンジンだ。DOHCしたことによって、シリンダーヘッドにはペントルーフ型の燃焼室が設けられ、その出入り口に吸気2排気2のバルブを採用、燃焼室のセンターにプラグホールを設けて火炎伝播と燃焼効率を上げた。ここは直4DOHC16バルブエンジンのお手本的な設計となる。ただセオリーに則るだけではなくホンダらしい独自性も持たせている。ZC型は市販乗用車で世界初の4バルブ内側支点スイングアーム方式を採用していたのだ。
DOHCはカムシャフトのカムがバルブリフターを駆動させる直動式が合理的と言われてきたが、ZC型は、敢えてカムシャフトでピポットを支点にしたスイングアームがバルブを作動させるようになっている。これにより吸気バルブで10.3㎜、排気バルブで9.0㎜のハイリフトを達成している。4バルブであることと合わせて吸排気効率を大幅に向上させた。
機構としては複雑で重くなるが、結果として高回転・高出力化を実現させるとともにシリンダーヘッドのコンパクト化を実現した。加えて、カム形状に沿って内部を肉抜きした世界初の異形中空カムシャフトや小型軽量の4連アルミシリンダーブロックを採用するなど、数々の軽量化を図り、高性能と両立している。
吸気系には脈動効果にすぐれた等長インテークマニホールドを採用した。チャンバーとポートを一体化することにより、吸入抵抗の低減と軽量化を実現。吸気脈動を最大限に活用するためにテストを繰り返し、ポート径、ポート長、容積などの最適チューニングを行い、導入部もファンネル形状としている。排気系は4-2-1-2のエキゾーストシステムを採用した。これは吸気系のハイチューニングによって吸気効率が高められたため、排気側でもそれを最大限に活用するためだ。
シリンダーブロックはアルミダイキャス製だ。4連ボア構造とすることで横置き時のエンジン全幅を短縮し、単体重量も軽量化している。ボア×ストロークは75.0×90.0㎜のロングストロークエンジンとなり、スペック的には高回転は望めない。あえてロングストロークを選んだ理由はいくつかあるが、まずはベースのEW型がアルミブロックを採用した4連サイアミーズシリンダー(=連続一体型シリンダー)という軽量コンパクト設計だったことが挙げられる。そのためボアの拡大がほとんどできず、スロトークを伸ばすことで排気量のアップを図った。また、ロングストロークゆえの日常域の実用性も重視した面もある。
とはいえ、レブリミットである6500rpmまで軽々と回るレスポンスの良さが大きな魅力だ。このへんはピストンの軽量化、カムシャフトダイレクト駆動ディストリビューターなど、小型軽量化とフリクションロスの低減の効果と言えるだろう。当時は1.6Lクラスのライバルとしてはトヨタの4A-GEUエンジン(最高出力130ps:グロス)があったが、そこから一歩突き抜けたものとなり、AE86はCR-Xの後塵を拝することも多かったのだ。
ZC型エンジン主要諸元
●型式:ZC
●配置・気筒数:水冷直列4気筒・横置き
●バルブ駆動機構:DOHC・ベルト
●気筒あたりバルブ数:4(吸気2/排気2)
●過給器:なし
●燃焼室形状:ペントルーフ
●総排気量:1590cc
●ボア×ストローク:75.0×90.0mm
●圧縮比:9.3
●最高出力:135ps/6500rpm(グロス)
●最大トルク:15.5kgm/5000rpm
●燃料供給装置:PGM-FI(電子制御燃料噴射)
●燃料・タンク容量:レギュラー・41L
●燃費:14.8km/L(10モード)