2022年10月25日、筑波サーキット コース2000において「BCS(ボッシュ・カー・サービス)サーキットミーティング」が開催された。その会場で、参加者の愛車からEDR(イベントデータ・レコーダー)に残された記録を吸い出すデモンストレーションを行ったところ、ちょっと不思議なデータに遭遇。事故を起こしていないのに残された6件の「クラッシュの記憶」は、CDR(クラッシュデータ・リトリーバル)の可能性を感じさせてくれるものだった。

「DATA LIMITATIONS」から記録が残された理由を知る

画像: レポートのすべては、英語で表記される。これは全68ページ中の1ページめ。

レポートのすべては、英語で表記される。これは全68ページ中の1ページめ。

ではなぜEDRに、記録が残されていたのか。その理由は、CDRレポートの冒頭に記載されている「DATA LIMITATION(データリミテーション)」から読み取れる。いわゆる「データに関する基本的留意事項」を記したものだがその一部に、こう記されていた。

「Recording of non-deployment events (NDEs)requires a minimum delta-V of 8km/h within a 150ms period in either longitudinalor lateral direction.」(非展開イベント (NDE) の記録には、縦方向または横方向のいずれかで 150 ミリ秒の期間内に 8km/h 以上のデルタ V が必要です)

ここで言う「デルタV」とは、車両の速度変化を数値化したものを指す。加速度に似ているけれど、どちらかと言えば動的なエネルギー変化を表しているものだと考えるとわかりやすい。そしてフォルクスワーゲン ゴルフGTI TCRの場合は、規定された150msecという極めて短時間の間に、8km/hを超える速度変化が起きると「イベント」として記録されることになっているということが、わかるわけだ。

ちなみにこの数値は「閾値(しきいち)」とか「トリガー」と呼ぶのだが、さてそれではTCRはいったいどこでそのトリガーを引いてしまったのか?筑波サーキットの場合、もっとも激しい速度変化が起きそうなポイントは一カ所しか考えられない。ホームストレートのエンド、つまり第一コーナーだ。

「System Status at Event」は雄弁だった

画像: 「Most Recent」は、もっとも新しいデータであることを意味する。レコードナンバーが増えると、過去の記録になっていく。

「Most Recent」は、もっとも新しいデータであることを意味する。レコードナンバーが増えると、過去の記録になっていく。

さて、それではいよいよ、第一コーナーへの突っ込みで果たして何が起こったのか?を検証してみたい。イベントの記録データは大きく分けて、3つの項目が分析に使われる。ひとつはイベントのシステムステータスを集約した「SystemStatus at Event」で、エアバッグ類の展開記録(要は開いちゃったか否か)を含めると、とてもたくさんの項目が羅列される。

すべてを解説しているととんでもないことになるので、ここではとりあえず注目しておきたい数値だけピックアップしておこう。同じデータのセットは6つ残っているのだが、わかりやすく最後のひとつについて見ていく。記録は新しいものからRecord1~とナンバリングされるので、最後のイベントが最新のイベントということになる。

■System Status at Eventの注目ポイント

・Event Counter at Event:51(→過去に記録されたイベントデータは50回ある!もちろん全部、サーキット走行時のものだろう)
・Event Type:Front(前後方向の衝撃エネルギーがトリガーとなっている。ブレーキングもそれに当たる)
・Maximum Delta-V, Longitudinal:-9.3MPH[-15km/h](→縦方向に加わった最大のデルタVは時速9.3マイル=15km/h。マイナスは前から後ろ方向に移動するエネルギーを指す。つまりは減速時の数値、ということだ)

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