2022年10月25日、筑波サーキット コース2000において「BCS(ボッシュ・カー・サービス)サーキットミーティング」が開催された。その会場で、参加者の愛車からEDR(イベントデータ・レコーダー)に残された記録を吸い出すデモンストレーションを行ったところ、ちょっと不思議なデータに遭遇。事故を起こしていないのに残された6件の「クラッシュの記憶」は、CDR(クラッシュデータ・リトリーバル)の可能性を感じさせてくれるものだった。

「Pre-Crash Data」で見えてきた、ドライビングテクニック

画像: 今回の検証では、Pre-Crash Dataはそれぞれのイベントに紐づけしてひとつずつ記録が残っていた。ケースによっては、複数イベントにひとつのPre-Crash Dataが残される場合もある。

今回の検証では、Pre-Crash Dataはそれぞれのイベントに紐づけしてひとつずつ記録が残っていた。ケースによっては、複数イベントにひとつのPre-Crash Dataが残される場合もある。

縦方向の最大デルタVが15km/hに達していることから、「なぜに事故ってもいないのにイベントが記録されたか」=「閾値を超えた」という前提が正しかったと考えられる。そして実はさらに興味深いのが、トリガーが入ったタイミングから5秒間さかのぼって記録される「Pre-Crash Data」だ。

しつこいようだが、事故っていないけれど記録は「Crash」となる。基本は左から右に、各タイミングでの項目の変化を見ていく。

■Pre-Crash Data -5 to 0 sec (Record 1, MostRecent)の注目ポイント

・Engine RPM (→エンジンの回転数は5000回転前半から6000回転後半。つまりかなり勢いよく回っている。4秒前から3.5秒前のところで一気に回転数が落ちているのは、シフトアップされたからだろう)
・Steering Input(→ステアリングはマイナス方向、つまり右から左にわずかに切られている状態から次第に直進となり、進入直前の1秒前には完全にまっすぐになっている)
・Speed, Vehicle Indicated(→5秒前は121km/h、そこから順調に加速し続け、0.5秒前には164km/hに達している)
・Accelerator Pedal(→100%がずらっと並ぶ。記録上はベタ踏み状態である。こちらも0.5秒前まで元気いっぱい)
・Service Brake Activation(→サービスブレーキ、というのは普通のブレーキのこと。こちらもOff=踏んでいません、が並び、最後の最後、0秒前でOn=踏みました)

一連のデータを組み合わせれば、記録のトリガーが入る前、ホームストレートでのドライビング状態を想像することができる。TCRのドライバーはストレートを全開で加速、コーナー手前でアウト側から直進状態でフルブレーキング、コーナーへのアプローチを行っていることになる。

まさにお手本のような「筑波サーキット2000の第一コーナー攻略」メソッドが、データとして残されていたわけだ。残されていたほかの5つの記録も、ほとんどがこれと似たような数値であり、ほぼ第一コーナーでの挙動変化が各イベント発生につながっていることがわかった。

今回の検証はあくまでも「変化球」的なCDRの検証であり、他にももっと多くの情報を読み取ることができる。だが、今や多くのクルマに普通に搭載されているEDRというデバイスが、果たして「どのように」「何を」伝えてくれるのか、が少しだけ理解してもらえるのではないかと思う。

実際の事故の場合には、こうした分析が事故原因の解明に役立つ。「その時、何が起こったのか?」を明らかにしてくれる可能性があるのだ。

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