電動化の立役者であり、進化し続けるMHEV
ボルボは古くから独自の個性を持つ自動車メーカーだ。販売台数は多くないが「ブランド力」が高いこと、人間中心の思想で「安全」に対するこだわりが強いこと、そして最近では「大胆な戦略」を素早く決断できることだろう。
そのひとつがパワートレーン戦略だ。2014年に「100%自社開発」、「4気筒以下」、「排気量2L以下」、「ガソリン/ディーゼル共通の基本構造」という明確なコンセプトで開発された「Drive-E」を投入。短期間ですべてのモデルに搭載を完了した。
その後、新世代ボルボ第一弾となったXC90には、Drive-E(ガソリン)とモーターを組み合わせた「プラグインハイブリッド」を設定。プラグインハイブリッドはすべてのモデルに水平展開されるが、当初はどちらかと言うと上級グレード用で主力は純粋なガソリン/ディーゼルだった。
しかし、15年に起きたフォルクスワーゲンによるディーゼルエンジン制御に関する違法行為、いわゆる「ディーゼルゲート」と呼ばれる問題から状況は一転。多くの欧州メーカーは電動化に舵を切る
戦略を取り始めた。その中でもボルボは短期間にドラスティックな変化を遂げた。
まず、17年に「19年以降に発売されるすべてのモデルを電動化させる」と発表。これは「純粋な内燃機関モデルの終焉」の宣言で、日本市場では20年にすべてのモデルが電動パワートレーン搭載モデルのみの設定となった。要するに「100%電動化」をいち早く達成したと言うわけだ。
ボルボ電動化の流れはさらに勢いを増し、21年には「30年に電気自動車(BEV)だけのブランド
になる」と宣言。つまり、今後ピュアな内燃機関モデルはラインナップから消える方向だ。
と言っても、30年までまだ時間はある。となると、内燃機関を組み合わせた電動化モデル・・・つまりハイブリッドも、より厳しくなる規制に合わせて進化させていく必要もある。ボルボのハイブリッドは「48Vマイルドハイブリッドシステム」、と外部からの充電が可能な「リチャージプラグンハイブリッド」の2タイプだが、ここで紹介するのは48Vマイルドハイブリッドシステムだ。
マイルドハイブリッド化に合わせてエンジンを最適化
現在ボルボの乗用車系のボトムレンジをステーションワゴンの「V60」が、クロスオーバーSUVのボトムレンジを「XC40」が支えている。この2台は7月にフェイスリフト(23年モデル)を実施したが、この最新モデルたちに搭載される48Vマイルドハイブリッドシステムの実力・魅力を東京〜伊豆のショートトリップでチェックしてきたので報告したい。
その前に、48Vマイルドハイブリッドシステムについて少しだけ解説しておこう。このシステムは欧州車を中心に16年頃から実用化された簡易型のハイブリッドシステムである。ではなぜ48Vなの
か?それは電気の計算式「電圧(V)×電流(A)=電力(W)」を見るとわかりやすい。
1)高電圧化で出力は上がる、2)同じ出力なら、高電圧化で必要な電流は抑えられる。「それならさらに電圧を上げればいいのでは?」と思う人もいるだろう。ただ、高電圧化は電源システムの大型化や安全対策(60V以上は人体への危険性が高い)などによるコスト増の影響もあるため、性能と費用とのバランスから設定された値となっている。
ボルボのそれはISGM(インテグレーテッドスタータージェネレーターモジュール)と呼ばれるモーター機能付き発電機とリチウムイオンバッテリーで構成されている。ISGMが減速時の回生エネルギーをリチウムイオンバッテリーに充電。その電力でアイドルストップ後の再始動やエンジン駆動のアシストを行っている。
ISGMの出力は10kW(13.6ps)/40Nmと高くなく、モーターのみでの走行(=EV走行)は想定されていない。要するにエンジンが主流でモーターはアシストに徹するユニットなのだ。
組み合わされるエンジンはDrive-Eの2Lターボだが、マイルドハイブリッド化に合わせて最適化。今回のモデルに搭載されるのはその進化版で、実は21年12月にV60 B4モメンタム(22年モデル)に先行投入されていたのだが、今回の改良でV60/XC40共にこのユニットに変更された。