初代S30型のモチーフが活きる最新形「フェアレディZ」
2022年に登場した新型車で、クルマ好きが何より盛り上がったモデルと言えば、やはり新型日産フェアレディZだろう。スポーツカーのビッグネームの14年ぶりの刷新は、純内燃エンジンにATだけでなくMTも用意するパワートレーンで歓喜させたのだ。
そして奇しくも、そんなタイミングでGRスープラがMTを追加してきた。これは狙い撃ちしたわけではなく単なる偶然だったのだが、80年代以降、日本のスポーツカーシーンを盛り上げてきた伝統的な2台が、22年にそれぞれMTをラインナップして相まみえることとなったのだから、やはりこれは何か見えない力が働いたと言ってもいいのかもしれない。
もちろん、気になるのは今の時代にあえてMTを用意してきたこの2台が、一体どんな価値を提示し、どんな歓びをもたらしてくれるかである。今回の試乗、大いに期待に胸をふくらませてのものとなったのだ。
20年に新型フェアレディZが開発中だと明らかにされた時に抱いたのは歓びと、安堵のような気持ちだった。何しろ長くモデルチェンジされずに放っておかれていたクルマだけに、もはや新型の登場には期待できないのかなと思っていたからである。
型式名RZ34と、新しいZは実は従来のZ34のアップデート版というかたちになり、基本骨格を共有する。しかしながらデザインは一新され、各部に初代S30型のモチーフが使われたクルマ好きのハートをくすぐる仕立てとされている。
面白いことに、Z33から進化する時にホイールベースを短縮していたZ34のディメンジョンはロングノーズ・ショートデッキのプロポーションまでS30型を彷彿とさせるものとなっているのだ。
エンジンは先にスカイライン400Rに搭載されていた3L V型6気筒ツインターボユニットで、最高出力は405psを発生する。ターボ回転数センサーによって小径のターボチャージャーを限界近くまでキッチリ使えるようにしたことで、パワーとレスポンスを両立しているのが特徴だ。しかも今回、MTとの組み合わせを考慮して、アクセルオフ時の回転落ちを早めるリサーキュレーションバルブが搭載されている。
そしてトランスミッションは改良された6速MT、そして従来の7速から9速とされたATを用意する。当初の議論ではエンジンスペックを2種類用意する話もあったというが、リソースは限られているだけに今回はMTの設定を優先したのだという。試乗車は最上級のヴァージョンSTだが、パワートレーンは全車同一だ。
新しいZにとっては、MTで操るスポーツカーであることが存在意義として非常に重要だった。傍らにGT-Rというクルマもあるだけに、それも納得だろう。
17年の時を経てGRで復活した5代目スープラ
対するGRスープラは2019年に販売が開始された。皆さんもご存知のとおり、その歴史はいったん、完全に途切れている。先代トヨタ スープラの販売終了は2002年。それから実に17年を経て、新たにGRブランドのモデルとして復活したのが通算5代目となる現行モデルなのだ。
GRスープラは技術提携関係にあるBMWとの共同開発で生み出された。シャシ、パワートレーンの基本部分はBMW Z4と共有しているが、決してそれをベースにスープラが作られたというわけではなく、両社で寸法やディメンジョンなどを策定したあとには、それぞれ別々に開発を行った。生産はマグナシュタイア。つまり輸入車という扱いになる。
このクラスのベンチマークと言っていいポルシェ718ケイマンを凌駕する運動性能を実現するべくホイールベースは2470mmときわめて短く、スープラとして初めて2シーターレイアウトを採る。ちなみにフェアレディZのそれは2550mmである。またボディ剛性も徹底的に強化されており、登場当時にはトヨタ86に対してねじり剛性で約2.5倍、レクサスLFAをも上回ると公言されていた。このあたりのスペックはトヨタ主導で決められたという。
エンジンは3種類。新たにMTが設定されたのは最高峰のRZで、3L直列6気筒ターボエンジンは最高出力387psを発生する。従来の8速ATに加えて設定されたMTは6速である。
さっそく乗り込んだのはフェアレディZ。ステアリングホイールはあえて径がそこまで小さくされておらず、リムも細め。R32型スカイラインのそれと似た形状の断面とされており、手にしっくりと馴染む。シフトレバーの位置は適正。その後方にはレバー式のパーキングブレーキが備わる。
クラッチペダルはストローク初期は拍子抜けするほど軽いが、踏み込むと足応えが出てくる。繋がりはシビアではなく扱いやすい。低速トルクのしっかりとしたエンジンのおかげで、クラッチを繋いでいくだけでも発進は余裕だ。
この絶対的なトルクの余裕、そしてターボラグとはほぼ無縁の心地良いレスポンスのおかげで、フェアレディZは想像以上の軽快さで速度を伸ばしていく。さらに右足に力を込めていった時の反応も鋭く、そのまま一気に高回転域まで豪快に吹け上がり、瞬く間に7000rpmのレブリミットに到達する。
最高出力の発生回転数は6400rpmだが、実際に回していくとここからさらに一段、ロケットに点火されたような伸び感が味わえるから、ついついトップエンドまで引っ張ってしまう。そんな時に嬉しいのがスーパーGTドライバーの松田次生選手が監修したメーターパネルで、レッドゾーンがちょうど時の位置に来るので瞬間的に確認しやすいのだ。