あえてMTを選ぶ意味を感じさせるアナログ感
肝心のMTは、従来に比べればシフトフィールは格段に良くなったものの、ストローク感は長めだし、Z33やz34にあったアクセルのオン・オフでパワートレーン全体が揺れる感じも残っていて、いつでもスパッと歯切れ良く・・・・とはいかない。
けれど、手のひらでスイートスポットを探りつつ変速するアナログ感は、あえてMTを選ぶ意味を感じさせてくれるとも言えるので、一概に否定するものではないと思う。お馴染みシンクロレブコントロールのおかげでシフトダウン時の回転合わせはクルマに任せられるから、シフトミスは、ほとんどないと言っていい。
サスペンションは想像よりもしなやかな設定で、コーナリング時には適度なロールを許しつつ、ノーズを軽やかにイン側に引き込んでいく。コントロールの実感が得やすいし、接地感も上々で、クルマと対話しながら走らせるのがなんとも楽しい。
一方、乗り心地は上屋が常にひょこひょこ動いている感があるし、ロードノイズも大きいなど、古さを感じる部分も皆無ではない。トラクション性能も、増大したパワーに対してはもはやギリギリで、冷えて濡れた路面では3速くらいでも踏み込めばすぐにホイールスピンが起きてしまう。
そんな具合で不満もなくはないのだが、なぜか許せてしまうのがこのクルマ。別にそんなに飛ばさなくても、好きなところでシフトアップして適当なペースでクルージングしている時が、実は一番気持ちが良かったりする。そもそもリアルスポーツというより、もっとGT寄りの味付けという伝統は、しっかり継承されているのだ。
緻密なエンジンの回り方と高い精度のシフトフィール
外観から想像できるとおり、スープラのキャビンはタイト。乗り手を選ぶところかもしれないが、包まれるような感覚はスポーツカー好きとしては堪らないものがある。ドライビングポジションもすぐさま臨戦態勢という趣で、気分を昂ぶらせるという意味では、スープラの方が上手と言える。
走りも、やはり硬派な躾だ。何しろステアリングホイール、シフトレバー、クラッチペダルなど操作系が、どれもズッシリと重たい。思わず座り直して、背筋を伸ばしたくなる。走行距離が進めばもっとスムーズになるに違いないが、それでも決してシブかったりするわけではなく、クラッチミートは感覚がとても掴みやすい。
エンジンのフィーリングも非常に緻密。きめ細やかで滑らかな回転上昇には、やはりシルキーシックスという言葉は健在だなと唸らされる。トヨタがスープラと言えば直列6気筒という伝統にこだわってBMWに共同開発を持ちかけたのも、なるほど納得だ。
1800rpmから発生する500Nmの最大トルクは5000rpmまでフラットに持続するので、ほぼどの回転域にあってもレスポンスは上々。しかしながら、右足の動きに即応するツキの良さ、そして回すほどに粒が揃っていくかのような感覚の前では、もっとアクセルを踏み込みたいという誘惑に抗うのは難しい。
そして実際にそのまま引っ張ると回転計の針は6500rpmからのイエローゾーンを超えて、レッドゾーンの始まる7000rpmまで一気に到達。凄まじい快感をもたらしてくれるのだ。
もちろん、ATでもその旨味は十分味わえるが、やはりMTで堪能するのは格別である。この緻密なエンジンの回り方と、ショートストロークでカチッと精度の高いシフトフィールはぴったりマッチしていて、実に小気味良い。こちらもクラッチミート時のエンジン回転保持やシフトダウン時のブリッピングを行うiMTが採用されているから、MTの楽しい部分だけを抽出して楽しめるのだ。
スープラはMTを追加設定しただけでなく、シャシにも再び手を入れてきた。2020年の変更でも初期型に比べれば夢のように良いフットワークを得ていたが、最新型はその方向がさらに推し進められている。
ステアリングレスポンスは中立位置からきわめてダイレクトで、狙ったラインに一発で乗せていくことができる。サスペンションは従来よりしなやかさを増した印象だが、凄まじく高いボディ剛性もあってタイヤの位置決めは正確で、曖昧な動きを感じさせない。
そして、そこからのアクセルオンでピリピリとした緊張感を強いたのが導入初期のスープラだが、少なくともワインディング路の速度域においては挙動変化はそこまでピーキーではなくなり、より寛容な走りを手に入れたと言っていい。
いずれにせよ言えるのは、スープラは非常にソリッドな感触を持ったリアルスポーツカーだということである。あるいはATの方がフルパフォーマンスを発揮させるのは容易かもしれないが、MTを自らの手で操作して繊細に︑大胆にその速さを引き出すのは︑これまた無上の歓びに違いないのだ。