走りはしっとりと落ち着き、新たな方向性を感じさせる
次に走りに関することだが、まずエンジンは当初、4.2FSI(372ps)、4.2TDI(350ps)、3.0TDI(250ps)の3本立てとなる。すべて従来モデルよりパワースペックは向上しているが、エネルギー回生システムの採用やエンジン本体のリファインなどで、燃費は大幅に向上している。3.0TDIはアイドリングストップ機能も持つ。すべてクワトロシステムと組み合わせられる。
そしてニュースは後に追加されるというFFの3.0TDIで、これは最高出力は204psに抑えられるが、燃料消費量はEU複合サイクルで、16.7km/L、CO2排出量は156g/kmでしかないという。さらに2014年発効のユーロ6に対応するクリーンディーゼルも鋭意開発中だ。
トランスミッションはシフトバイワイヤコントロールのZF社製の8速ATが採用された。また、A4と同じように、フロントアクスルが前方へ145mm出された。これにより、前後の重量バランスは59:41から57:43になったという。
実際の走りだが、4.2FSIはとにかくスムーズだ。エンジンは力強いというイメージではなく、低回転から十分なトルクを出しつつ、そのまま高回転域まで伸びるといった感じだ。このスムーズさに大きく貢献しているのが8速ATだ。シフトショックはほとんど感じられず滑らか、トルコン式ATの味、ここに極まるといった印象。また8速ギアでの100km/h巡航時、エンジンは1600rpmでしかないので静粛性も非常に高い。このZF製の8速ATは、アウディ、BMWなどプレミアムモデルの走りの質感を一段上に引き上げたと言える。
スムーズさに対して、走りの躍動感という点はどうだろうか。そこにはアウディの新たな考え方が見えたように思う。具体的には「しっとり落ち着いていて、無駄に軽さを感じさせない」ということだ。これまではASFによって実現した軽快さを殊更にドライバーへ感じさせるようなところがあったが、新しいA8にはそれがない。そもそも重量増はほとんどないとは言え、ボディがかなり大きくなっているので乗り味は落ち着いた方向になるだろうが、それにしてもフィーリングは以前とかなり違う。明らかに目指す方向が変化した。
実はこうした変化を感じたのは、このA8に限ったことではない。熟成が進んでいるA4などでも、最近デリバリーされているものは「しっとりとした落ち着き」が出てきている。これはいい方向だと思う。
さて、もう残された誌面は少ないのだが、以上のことに加えてニューA8の特徴は、様々な最新技術が満載されているというところにもある。
それを簡単に説明しておくと、まず、「アウディプリセンスセーフティシステム」というカメラとレーダーを使った事故防止と損害軽減のためのシステムが投入された。また、ストップ&ゴー機能付きアクティブクルーズコントロールも用意された。さらに歩行者マーキング機能付きナイトビジョンアシスト、ダイナミックステアリングも設定されている。従来からあるアウディドライブセレクトなどがさらに進化していることは言うまでもない。
ニューA8にはアウディが持つ最新技術が惜しみなく投入されている。そして、それをいかにうまくユーザーに使ってもらうか。マン・マシン・インターフェイスが突き詰められている。このクラスはメルセデスのSクラスが圧倒的な強さを見せているのが現状だが、アウディはこの新しいA8で、その牙城を着実に崩していくのではないかと思う。アウディらしい高級車のあり方が鮮明なことが、市場で評価されるだろう。日本への導入は来年早々だそうだ。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之)
アウディA8 4.2 FSI クワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高:5137×1949×1460mm
●ホイールベース:2992mm
●車両重量:1835kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4163cc
●最高出力:273kW(372ps)/6800rpm
●最大トルク:445Nm/3500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●最高速:250km/h (リミッター)
●0→100km/h加速:5.7秒
※EU準拠