ソフトな感触と適度なフラット感が高い次元で両立
ロールスロイス初のBEVと聞いて、パルテノン神殿と呼ばれる伝統のフロントグリルが消え去ったり、キャビンには巨大なディスプレイが鎮座していると期待された方に誠に申し訳ないが、レイスを思わせる特徴的なファストバックスタイルを含め、その内外装は現行ロールスロイスの正常進化版というべき範囲に収まっている。
走りの方も同様で、動き出す瞬間に「ヌルリ」という感触を伝えるマナーも、アクセルペダルを踏み続ければ滑らかに車速を伸ばしていくシームレスな加速感も、従来のロールスロイスとまるで変わらない。そもそも、これまでのV12エンジンは電気モーターをお手本として開発されてきたのだから、BEVになったことでついに究極のロールスロイスが完成したといっても間違いではなかろう。
250万kmに及ぶテスト走行がいままさに南アフリカで行われているロールスロイス初のBEV「スペクター」。今回の国際試乗会は、そのプロトタイプをケープタウン郊外の市街地やワインディングロードで走らせるもので、世界中から集まった9名のメディア関係者が参加。
その印象を手短に説明すれば、狭い道にも自信を持って入っていけるボディの見切りの良さが受け継がれていたほか、ワインディングロードでは道路の幅を有効に活用しながらコーナーを駆け抜けることのできる正確なハンドリングを堪能できた、となる。もちろん、乗り心地は極上の快適さだが、そのソフトな感触と適度なフラット感が高い次元で両立されている点は、いかにもロールスロイスらしいと思えた。
このスペクターを皮切りとして、ロールスロイスは2030年までに全モデルをBEVに切り替える計画だが、顧客はこうした変化を歓迎するのだろうか?試乗会場で個別インタビューに応じたトルステン・ミュラー・エトヴェシュCEOは、次のように語った。
「ロールスロイスのお客さまの多くはすでにポルシェタイカンやテスラなどを所有し、ガレージには充電用のウォールボックスを備えています。その上で、1日も早くロールスロイスのBEVが欲しいと望んでいるのです。一部のお客さまにはすでにスペクターをご覧に入れましたが、おかしなデザインにせず、いかにもロールスロイスらしい仕上がりとしたことで、多くの方々がほっとされている様子でした」
あくまでも顧客の言葉に耳を傾けながら電動化を進めるロールスロイス。その第一弾となるスペクターの成功は、したがって約束されたも同然だろう。(文:大谷達也/写真:ロールス・ロイス モーターカーズ)