エンジンマニアの心を忘れなかった新型グラントゥーリズモ
2019年秋、マセラティは次世代モデル戦略を発表した。新型スポーツカー(MC20)やレヴァンテより小さなSUV(グレカーレ)の登場を宣言し、さらに次世代のグラントゥーリズモおよびグランカブリオを電動化すると明言して、クルマ好きをあっと言わせたのだ。グラントゥーリズモ=GTといえばブランドを体現するモデルだ。マラネッロ製V8エンジンの官能フィールもまたエレガントなスタイルと並ぶ魅力だった。
ところが!マセラティはエンジン好きマニアの気持ちも決して忘れてはいなかった。蓋を開けてみると新型グラントゥーリズモにはフル電動モデル(BEV)のフォルゴーレと共に、V6ツインターボエンジン「ネットゥーノ」を搭載した内燃機関エンジンモデル(ICE)も用意していたのだ(ちなみにフォルゴーレの蓋=ボンネットは開かない)。
さらに、異なるパワートレーンをまったく同じスタイル、しかも旧型より低い車高のクーペボディに収めてきたことに驚いた。これまでもICEとBEVの車台共有例はたくさんあるが、いずれも床下に余裕のあるSUVか、セダンなら少し車高を上げていた。巨大なリチウムイオンバッテリーを積むためだ。グラントゥーリズモにはそれがない。どころかボディフロアの構造もほぼ共有する。
秘密はバッテリーのカタチにあった。V6ツインターボエンジン+ZF8速AT+AWDシステムを搭載する構造にあわせて、バッテリーと電動システムもまたボーン状にデザインしたのだ。これにより、世界でもっとも着座位置の低いBEVが誕生したのだった。
ICEのモデナ、トロフェオ、BEVのフォルゴーレを一気乗り
マセラティが威信をかけて開発し、MC20に搭載して注目を集めたV6ネットゥーノのウエットサンプ版を積んだICEの2グレードから試す。最高出力とドライビングキャラの違いでトロフェオとモデナの2種類を設定した。
出力の低い490ps版のモデナは、よりグランドツーリングカー志向の強いグレードで、マセラティの古典にも通じる仕上がりだった。ドライブモードに過激なコルサの設定はない。
FRとして動的に理想的な前後重量配分52対48を生かし、ドライバーとの一体感に溢れるハンドリングを随所で披露した。旧型より格段に乗り手とフィットする感覚があって、ほとんどサイズ的には変わっていないにもかかわらず、随分と小さなクーペを駆っているという印象さえ持つ。乗り心地も洗練されており、高速クルージングも非常にジェントルだった。
550psのトロフェオは、はっきりとワイルドだ。サウンドも一層猛々しく、ハンドリングもニンブル。乗り心地もより硬質である。クルマはモデナよりさらに小さく感じられ、確実にかつよく動く脚の様子からボディのしっかり感さえ手応えとして楽しめる。
雨中で、しかもウインタータイヤだったためフロントの駆動をやや強めに感じることもあったが、路面が乾き出すと面白いようにノーズの曲がるスポーツカーへと変身した。もっとも欲しくなったグレードだ。
そして、フル電動のフォルゴーレだ。前に基、後は左右別個に2基の電気モーターを配し、それぞれ最大400psを発生。バッテリーの能力でシステム合計750psに制限されるが、スーパースペックに違いない(400kg重いが・・・)。前後重量配分は50対50。
サーキットで試したフォルゴーレは、構造からも容易に想像できたように、ICEとよく似たドライブフィールをみせた。静かさやパンチ力という点はBEVだけれど、車体の動きが違う。重い感じがしない。
4輪へ配される精緻に制御された駆動力が、ドリフトからクルージングまでありとあらゆる走りを感動の領域に引き上げた。電動車の未来にも大いに「楽しい」希望の持てる一台であった。(文:西川 淳/写真:マセラティS.p.A.)
マセラティ グラントゥーリズモ トロフェオ主要諸元
●全長×全幅×全高:4966×2113*1×1353mm
●ホイールベース:2929mm
●車両重量:1795kg*2
●エンジン:V6 DOHCツインターボ
●総排気量:2992cc
●最高出力:410kW(550ps)/6500rpm
●最大トルク:650Nm/3000rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム ・70L
●タイヤサイズ:前265/30R20、後295/30R21
*1サイドミラー含む数値、含まずは1957mm
*2EU準拠