エンジンの潜在能力は凄く直進安定性は素晴らしい
さて、いよいよ走り出すが、ローマの街中は路面がよくない。凸凹だらけだ。交通量も多く、運転マナーもいいとは言えず、かなり気を遣う。しかも、外気温は10度あるかないかという曇天だ。しかし、それでも気持ちがいい。イタリアの空気がそう感じさせるのかも知れない。また、街中の混雑したところでも安心して走れるのは、トルコン式ATを採用しているからだろう。
パドルシフトを備えていることもあり、その気になればハードなスポーツ走行にも応えてくれるのだろうが、ラグジュアリーなオープンモデルには、なんと言ってもこの扱いやすさは有り難い。エンジンもアクセルペダルをゆっくり踏んでいる限りは、ジェントルなフィーリングだ。
少し郊外に出て、アクセルペダルを若干踏み込んでみると、このクルマの底知れぬポテンシャルを感じさせられることになる。エグゾーストノートが胸にキーンと響く。そして、街中での印象がうそのように、1980kgの車重をものともせず過激な加速を見せる。このあたりにはフェラーリとの血縁関係を感じさせられる。共用するV8DOHC、440psの最高出力と490Nmの最大トルクを発揮するエンジンの総合力は非常に高い。カタログデータでは最高速は283km/h、0→100km/h加速は5.3秒だ。
さらに試乗コースを進みアウトストラーダ(高速道路)に入る。さすがにこの天候ではつらいので、しばらく走ってルーフを閉めた。ソフトトップであるため、120〜130km/hの巡航ではノイズもそこそこ入る。
それにしてもローマ周辺は路面の悪いところが多い。アウトストラーダには期待したのだが裏切られた。その荒れた路面ではかなり突き上げはあるし、またボディ剛性ももっと欲しいと感じたのが正直なところだ。タイヤは前245/35ZR20、後285/35ZR20のピレリPゼロを履いていたが、19インチの方がよいのではないかとも思った。
しかし、あまりなかったのだが、路面が悪くないところではスポーティで結構よい味であると感じたので、全般的にイタリアより路面コンディションがよい日本では、おそらく不満を感じることはないだろう。
また、ハンドリングはいかにもマセラティらしく仕上がっている。ドイツ車のようにカチっとしているのではなく、適度に「柔」なのだ。それでいて頼りないということはまったくなく、自然なフィーリングだ。この辺りはエンジンをフロントミッドシップとして、前後の重量バランスを49対51にしていることなどが効いているのだろう。
さらに高速巡航していて顕著に感じるのは、直進安定性の高さだ。この日は曇天が終いには雨天になってしまったのだが、そんな中でも実に安定した走りを見せた。2942mmというロングホイールベースがなせる技と言えるだろう。
今回はワインディングロードを走ることはできなかった。実は試乗コースとしては設定されていたのだが、ルートをミスしてしまった。これがかなり心残りなのだが、グラントゥーリズモSオートマチックに匹敵する走りを見せてくれるのだろう。日本では3月末発表で、クルマは夏前には入ってくるというから、そのとき確認させてもらうことにしよう。
さて、マセラティに新たに加わったグランカブリオは、これから3本柱の1本を担うだけの総合力を十分に持っていると感じた。他のブランドには決して真似のできない「優雅さ」に満ちあふれているからだ。マセラティは日本市場でも高級ブランドとして、いいポジションにいるが、グランカブリオによって、また着実にランクアップすると思う。(文:Motor Magazine編集部 荒川雅之)
マセラティ グランカブリオ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4881×1915×1353mm
●ホイールベース:2942mm
●車両重量:1980kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4691cc
●最高出力:323kW(440ps)/7000rpm
●最大トルク:490Nm/4750rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:283km/h
●0→100km/h加速:5.3秒
※EU準拠