2007年の東京モーターショーで「メトロプロジェクトクワトロ」、2008年のパリサロンで「A1スポーツバックコンセプト」を発表するなど、コンパクトカー市場への参入を図っていたアウディが、2010年3月、ついにコンパクトカー「A1」を発表した。さらなる勢力拡大を目指すアウディにとって、コンパクトカー「A1」にはどんな意味があったのか。ここでは2010年春にドイツ・ベルリンで行われた初代A1国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年8月号より)

このセグメントのモデルとは思えないほど上質

2010年3月、ジュネーブ国際モーターショーでデビューを飾ったA1。その会場で実際に見て感じたのは、全長4m未満というサイズでありながら、アウディらしさに満ちた躍動感あるダイナミックなデザインの巧みさと、立体的で入念に造り込まれた内装の質感がとても高いということだった。

画像: アウディらしい上質感溢れるインパネまわり。エアベントの筒部分は、アンビション標準のハイグロスブラック仕様。

アウディらしい上質感溢れるインパネまわり。エアベントの筒部分は、アンビション標準のハイグロスブラック仕様。

また、豊富に用意されるカラーバリエーションやオプションパーツによるカスタマイズの楽しさが提案されていたのも印象的だった。かつて、A2で挑んだサブコンパクトのBセグメントに再び参入するアウディにとって、他モデルでは得られないスポーティさとプレミアム感、そして所有する楽しさが重要視されていることもわかった。

今回の試乗は、日本導入が予定される1.4L直噴ターボエンジンの1.4TFSI(最高出力122ps/最大トルク200Nm)モデル、その7速Sトロニック仕様を中心に行った。

A1には、2種類のトリムレベルが用意される。上級感ある装備の「アトラクション」と、スポーティなダイナミック感を打ち出した「アンビション」だが、用意されていた試乗車はすべてアンビション仕様であった。

運転席に座ると、その余裕ある空間の広がりに驚く。ボディの全長は3954mmと短いが全幅は1740mmとたっぷりあるので、運転席でも助手席でも、その広さに不満は覚えない。

ただ後席は頭上空間の余裕が小さく、レッグスペースも限られているので、フル4シーターというよりは2+2シーターと考える方が適している。

インテリア全体の雰囲気は、このセグメントのモデルとは思えないほど上質だ。ダッシュボードの樹脂には、立体的なデザインでも上品かつソフトな質感が表現できるスラッシュ成形が採用され、そこに航空機のジェットエンジンを思わせる円形のエアベントが左右と中央に合計4つ配されて、全体としてダイナミックな印象が演出されている。

各スイッチ類の操作感も吟味されていて、R8やTTを思わせる空調の操作ノブを回したり、新しいMMIを操作してボタンを押してみたりしたが、他のアウディモデルと共通する操作感が実現されている。フォルクスワーゲンの新型ポロの上質感にも驚いたが、A1は上位モデルのA3やA4が備えるレベルと並ぶ水準にある。

燃費を意識した設定と街中での好ましい走り味

ベルリン市内の道は、思いの外に舗装路面が荒れていて、工事中の所も多く、道もけっこう混んでいる。旧東ドイツ時代の雰囲気を色濃く伝える街並みを見ながら走る。

画像: 日本でも認知が広まっている1.4TFSIエンジン。車重や性格によって同じエンジンでも車種によって設定は異なるがA1用は燃費指向と感じた。

日本でも認知が広まっている1.4TFSIエンジン。車重や性格によって同じエンジンでも車種によって設定は異なるがA1用は燃費指向と感じた。

電動油圧式パワーステアリングの感触はごく自然で好ましい。たとえば路面電車の線路上にフロントタイヤが乗って走るような状況でも、その感触がわかりやすく伝わってくるので、安心してハンドルを握っていられた。

A1のエンジンラインナップで最上級の位置づけとなる1.4TFSIモデルも、燃費を稼ぐべく、アクセルペダルを軽く踏むぐらいだとその反応はいたって大人しい。これまで、積極的に力強い反応を見せてくれるアウディ車が多かっただけに、ちょっとした驚きだった。Sトロニックは、Dモードでは素速く高いギアへとシフトアップしていく。7速、100km/h走行時のエンジン回転数は、ほぼ2000rpmであった。

もちろん、アクセルペダルを深く踏み込めば、活気を増した反応を示す。オプション設定されるパドルシフトの操作感は小気味よく、アウトバーン本線への合流などでフル加速する際などには、積極的にその操作を楽しんだ。

A1の開発にあたっては、デザインの魅力とともに効率の高さ、すなわち優れた燃費も重要視された。車体の軽量化にこれまで以上に力が注がれた結果、スチール構造ながらボディシェル重量は221kgと発表されている。最軽量の1.2TSFI(5速MT)では、荷物を含む1名分相当の重量75kgを加えたEU基準値で1115kgとなっている。7速Sトロニック仕様の1.4TFSIでは、同じく1200kgだ。ちなみにA3 1.4TFSI(7速Sトロニック/本国モデル)の同値は1345kgである。

そして、燃費向上の効果が高いアイドリングストップシステムを全モデルに採用するのもA1の注目点だ。なおSトロニックと同システムの組み合わせは、アウディ初となる。

信号などで停止すると、気がつかないうちにエンジンが停止する。「スッ」と消えるように紳士的な止まり方で、エアコンのブロワーファンが回っていたりすると気がつかないほどだ。マニュアルミッション車ならクラッチペダルを踏むと、Sトロニック車ならブレーキペダルを離してアクセルペダルを踏めばエンジンが再始動する。その際も静かに「プルン」とかかり、決して、アイドリングストップシステムの存在を訴えるようなことはしない。

このエンジンが止まっている状態でも、ハンドルを操作したり、エアコンのコンプレッサーが作動するような状況になると、エンジンは自動的に再始動した。またマニュアルスイッチで、アイドリングストップ機能をキャンセルすることもできる。

乗り心地は、最新モデルらしく気持ち良いもの。試乗車には標準の15インチ仕様から2インチアップとなるオプションの215/40R17タイヤが装着されていたが、路面からの入力はタイヤからボディへ、そして出来の良いシートを通して、最初の衝撃をうまくいなした形で伝わってくる。高いボディ剛性、そして回転数が低く控えめなエンジン音、さらに遮音材の効果で走行中でも静かな車内の印象と相まり、快適な乗り心地と感じられた。

ただ、運転席でも助手席でも、走行中のフロア振動はやや大きめだ。シャシ開発の責任者であるDr.ホルスト・グラセル氏に聞いてみると、それは17インチタイヤを装着していることが要因として考えられる、とのことだった。スタイリング的には、この17インチ仕様は十分に魅力的なのだが……。

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