滑らかな乗り心地でロングドライブも快適
カーボンモノコックを用いたスーパースポーツカーをコンバーチブル化する作業は、金属製モノコックを用いる場合に比べて難易度はさほど高くないとされる。
なぜなら、カーボンモノコックは、別名バスタブとも呼ばれるように浴槽によく似た形状をしており、乗員の頭上にあたる部分には特別な構造体を持たないのが一般的。したがってルーフを切り取っても剛性の低下は目を瞑れる範囲で、この部分を開閉可能なリトラクタブル式ハードトップに置き換えることで、コンバーチブル化の主要な作業は完了すると考えられるからだ。
しかし、クーペ版MC20のカーボンモノコックは乗員の頭上にあたる部分にも応力を受け持つカーボン製パーツが張り渡してあるので、単純にここを切り取ると剛性の低下が免れない。そこでMCチェロではカーボン繊維の素材や張り方などを抜本的に見直して剛性を改善。ルーフなしの状態でもクーペ版MCと同等の安全性を確保することに成功したという。
デザイン面でも手の込んだ作業が行われた。MC20チェロのBピラーは、クーペ版がほぼ直立しているのに対して、前方に向けて少し傾いた角度がつけられている。さらに、ルーフを切り取る箇所についても、ルーフが水平に近い角度まで寝始める、ウインドシールドからやや離れた部分をあえて選択。
こうすることで、Aピラーからドア上部を経てBピラーに至る部分だけでも環状がイメージできるスタイリングを生み出したと、チーフデザイナーのクラウス・ブッセ氏は語っていた。
加えてMC20チェロではルーフ素材として液晶の技術を用いたPDLC(高分子分散型液晶)を採用。これにより、ルーフ部分を透明な状態にも曇りガラス状にも瞬時に切り替えることが可能になった。おかげでMC20チェロは、晴れているときだけでなく雨が降っていたり曇っているときでも空の様子を楽しめる。これこそイタリア語で「空」を意味するチェロの名に相応しい装備といえる。
サスペンションストロークの長さがフラットな姿勢を生む
試乗当日は、幸いにも晴れたり曇ったりの空模様だったので、オープンをはじめとしたMCチェロの魅力を満喫できた。
MC20はスーパースポーツカーのなかでもとりわけサスペンションストロークが長く、これを駆使して荒れた路面でも滑らかな乗り心地が楽しめるが、MCチェロはその傾向がさらに強く、大きくうねるような路面でも足まわりが巧みに伸縮してあらゆる衝撃を遮断してくれる。
しかも、ボディは一定の範囲でフラットに保たれるので長距離クルージングもまったく苦にならない。この点こそ、ピュアスポーツカーとは明確に異なる、グランドツアラーを標榜するマセラティに似つかわしいキャラクターだといえる。
その一方で、ワインディングロードでは機敏なハンドリングを心ゆくまで堪能できるのがMC20チェロのもうひとつの横顔。そんなとき、コーナーの入り口でハンドルを切り込むだけでもスーパースポーツカーに相応しいレスポンスを示してくれるが、マセラティの「作法」に従い、軽いブレーキングでフロント荷重を積極的に作り出すと、前輪がまるで路面に張り付いているかのような接地感を生み出し、繊細なハンドル操作にも即応するコーナリングを披露してくれる。