直列6気筒、FR、M・・・。いずれもBMWが守り続けてきた、彼らを象徴するものたちだ。ガソリンエンジンの終焉が近づきつつある今、BMWは真のスポーツモデルというべきクルマを送り出した。M2クーペのMTとATの2台を同時に試乗して、今だからこそ選びたくなるピュアエンジン車の真価を探った。(Motor Magazine 2023年12月号より)

車線の中をピシッと素直に走ってくれるM2クーペのハンドリング性能。

高速道路の途中でATモデルに乗り換えたのだが、ここでは8速ATと6速MTの違いがはっきりと出てくる。100㎞/hで巡航している時のエンジン回転数は、ATが1500〜1600rpmくらいなのに対しMTは2100rpm程度と、500rpmほど高い。この時のエンジン音の違いもある。

画像: M2クーペの8速ATモデルにはACCが装備されるが、6速MTモデルでは車速固定式のクルーズコントロールの搭載にとどまる。

M2クーペの8速ATモデルにはACCが装備されるが、6速MTモデルでは車速固定式のクルーズコントロールの搭載にとどまる。

ATは明らかに静かで快適だった。Mモデルに乗っていても、長距離ドライブでの巡航モードなら静かな方を期待するだろう。また高速道路では燃費の差も大きくなる。ギア段数が多く、より高いギアを使えるから静かさと燃費にメリットが出る。

さらに高速道路でATが良いのはACC(アクティブクルーズコントロール)が装備されていることだ。一方MTにはACCはなく同じスイッチ位置に速度固定式のクルーズコントロールが付いている。こちらは先行車を捕捉できないので、ドライバーがブレーキを踏まなくてはならない。この紛らわしいスイッチは不要でACCがつかないならクルーズコントロールだけの装備はしない方がいい。

高速道路を走ると、ATもMTもハンドリングは優秀であるとわかる。車線の中をピシッと素直に走ってくれる感触はいい。ハンドルの遊びは非常に小さく、手の動きに対してリニアなヨーの反応がある。ハンドルを動かさなければ、クルマがピタッと路面を掴んで走っていくのも気持ち良い。

ワインディングロードではMTが楽しかった。実際にはATの方が各コーナーでのエンジン回転数が合っているとか、コーナー立ち上がりで美味しいエンジン回転数から加速できるなど、クロスレシオの8速ATのメリットが感じられた。それでも自分でクラッチペダルを踏み込んでシフト操作をして、それもハンドル、アクセル、ブレーキ操作をしながらやるというのは、全身でクルマを操っている感覚を楽しめるからだ。

コーナーでは車体が軽い感じで、ハンドル応答性がキビキビしている印象だった。乗り心地は20㎏の差が効いているのかは不明だが、ATの方が上下動を少なく感じた。これも重量の違いなのだろうか。

理想論的にはATになるかもしれないが、エモーショナル面ではMTを選ぶ。

おまけとして、以前体験したM2クーペのサーキットインプレッションをお話ししよう。サーキット走行では先代モデルより安定感が増していた。しっかりとグリップしてくれて、コーナーに突っ込んで行ってもアンダーが強く出ることはなく、クルマが逃げていかない。

M2クーぺのATとMT、どちらを選んで走ろうか。そんな贅沢な選択ができるスポーツモデルのラインナップは、そう他にはない。

コーナー頂点からアクセルを踏んでいったときには穏やかにリアが外側に膨らんでスピードを上げながらもアンダーステアを出さずに綺麗に立ち上がって行くのに感激。これぞFRだ。リアの流れ方もドライバーがハラハラする動きではなく、アクセルペダルの踏み込み量に応じてジワジワと膨らむので安心感がある。

難関サーキットとして有名なニュルブルクリンクの北コースで、BMWドライビングエクスペリエンスのインストラクターとして先代のM2で走ったことがある。M4がすごく走りやすかったのに対して、M2だとバンピーな路面では挙動に急な動きが出るので、M4よりもホイールベースが短いことでクイックな反応ができる裏側に、トリッキーな動きも出てしまうなと思った。

しかし新型M2は日本のミニサーキットを走った限りだが、先代より安定感があり、グリップの限界を超えたところでも非常に穏やかな動きなので安心感が高くなった。この感じなら新型M2は北コースもM4並にうまく走ってくれそうだ。なので今度は新型M2でニュルを攻略したくなった。

0→100㎞/h加速ではATの方が速くてカタログ燃費も良いし、シフトチェンジする時間も短い。おまけにシフトミスする可能性はないなど良いことだらけだが、MTも捨てがたい。M2を乗るのにそんなに速く走る必要もないし、シフトチェンジも急がない。確かに燃費は良い方がいいかもしれないが、そこまで効率を求めない。

理想論的にはATになるかもしれないが、エモーショナル面ではMTを選ぶ。他人にはATを勧めるが、MTを買った人には拍手喝采を送りたい。つまりどっちもいいクルマなのは間違いない。
(文:こもだきよし/写真:伊藤嘉啓、村西一海)

BMW M2クーペ(8速AT) 主要諸元 ※カッコ内は6速MT

●全長×全幅×全高:4580×1885×1410mm
●ホイールベース:2745mm
●車両重量:1730(1710)kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●総排気量:2992cc
●最高出力:338kW(460ps)/6250rpm
●最大トルク:56.1kgm(550Nm)/2650-5870
●トランスミッション:8速AT(6速MT)
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・52L
●WLTCモード燃費:10.1(9.9)km/L
●タイヤサイズ:前275/35R19、後285/30R20
●車両価格(税込):972万円

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