2009年のフランクフルトモーターショーで試作モデル「エアロX」として発表された2代目サーブ9-5が、2010年になって市販モデルとしていよいよ欧州デビューを果たした。ゼネラルモーターズの経営危機により、親会社が二転三転、結局スパイカーの下で再スタートを切ることになった。この後、2011年の末にサーブの経営破綻により生産は終了となってしまうが、わずかではあるものの日本にも上陸している。サーブファンにとっては忘れられない1台だろう。ここでは日本販売に向けて期待が膨らむ中で行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年9月号より)

コンセプトカー「エアロX」のモチーフを盛り込んで誕生

紆余曲折あって、結局、オランダの少量生産高級メーカー、スパイカー傘下に収まったサーブ。GM時代に開発が終わっていた新型車9-5もラインオフし、ついにサーブの「第二創世記」が始まった。

これはファンにとっては朗報だ。日本市場ではGMアジアパシフィックに代わって、PCIがインポーターとして名乗りを上げた。今年の秋以降、既存モデルとこの新型9-5が日本に上陸するはずだ。

ただ、サーブの今後に関してはまだ楽観視できない。9-5を含めた既存ラインナップの拡販だけでは、トロールハッタンの本社工場を軌道に乗せるのは難しいだろう。かといって、メカニズムをGMに頼り切ってきたため、コンパクトカーやエコカーといった現代の自動車産業の「必須科目」を単独で履修することはほとんど不可能。今後の舵取りに注目したい。

サーブとしては、まずはこの新型9-5今一度、その存在を世界に知らしめておきたいところ。実際、コンセプトカー「エアロX」から特徴的なモチーフを拝借した初めてのサーブということで注目を集めてもいる。新たなデザインテイストを世に知らしめることで、ブランドイメージの再構築を図りたいというのが本音だろう。

画像: 2006年に発表されたコンセプトカー「エアロX」の流れを感じさせる。

2006年に発表されたコンセプトカー「エアロX」の流れを感じさせる。

サーブらしく、全グレードにターボを搭載

さて新型サーブ9-5は、オペル・インシグニアと兄弟車である。ホイールベースが100mm長いだけで、エンジンラインナップなどメカニズムのほとんどを共有する。ただ全グレードをターボ車とした点が、いかにもサーブらしいところだ。

インテリアはといえば、ここ最近のサーブ的手法に則ったもので、イグニッションはスターターボタンとなり、メーターの表示色は今となってはかえって新鮮なグリーンだ。室内は確実に広くなり、特に後席レッグルームは十二分。独立したトランクルームにはU字型のカーゴレールまで備わっている。

インシグニアのヨーロッパにおける評判が良かったので期待してトロールハッタンに出掛けたが、結論から言うと、クルマそのものの仕上がりは期待に違わず上々であった。

たっぷりとしていてホールド性のいいシートに落ち着くと、まず独特の景色が眼前に広がる。フロントスクリーンが飛行機のキャノピーのようにかすかに湾曲していて、切り取られる視界の形状がユニークなのだ。ATのシフトノブは逆L字型ダッシュボードの割と高い位置に置かれている。「らしい」雰囲気である。

加速フィールもまた、サーブらしい。ターボは目立たず騒がず、けれども強力な推進力を発揮する。若干のフロア振動が気になったが、その他、ボディのしっかり感、足まわりの食いつき、静粛性などは十分コンペティティブで、初めて乗ってもすっと馴染んでいける。悪くいえば個性が弱いが、よく言えば安心して身を任せられる。そんなクルマだ。

スポーツモードにセットすれば、一転、ハンドリングを楽しめるレベルにまでクルマそのもののマナーがヒートアップする。メカニズム的な見どころは少ないけれども、完成度は高い。アウディA6などの好敵手となるはずだ。(文:西川 淳)

画像: シンプルなスカンジナビアンデザインといかにもサーブらしい伝統的造形を感じさせるインテリア。

シンプルなスカンジナビアンデザインといかにもサーブらしい伝統的造形を感じさせるインテリア。

サーブ 9-5 ターボ6 XWD 主要諸元

●全長×全幅×全高:5008×1868×1467mm
●ホイールベース:2881mm
●エンジン:V6DOHCターボ
●排気量:2792cc
●最高出力:220kW(300ps)/5500rpm
●最大トルク:400Nm/2000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●最高速:250km/h
●0→100km/h加速:6.9秒
※EU準拠

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