ディーゼルに使えるカーボンニュートラル燃料「HVO」とは
2023年のENEOSスーパー耐久シリーズは、11月の富士4時間耐久を最後に今シーズンが終了しました。
2021年から新設されたST-Qクラス(他のクラスに該当しない、オーガナイザーが認めた開発車両)ではマツダ、トヨタ、スバル、日産、ホンダ(ゼッケン順)の国内5社がそれぞれに得意とする分野での内燃機関搭載車両・計7台のマシンを投入、健闘しました。
そんな中で唯一、ディーゼルエンジン搭載車で参戦しているマツダ3(MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio concept)に使われるカーボンニュートラルな燃料(CNF)が、「HVO」と言われるバイオディーゼルです。
バイオマス由来の成分濃度が100%の「HVO100」としてマツダは、今シーズン前半は国内のバイオテクノロジー企業ユーグレナから、後半はフィンランドの大手エネルギー企業 ネステ社から供給を受けました。
HVOとは「HydrotreatedVegetable Oil(水素化植物油)」を略したもの。主に植物性の廃食油・非可食油を原料に、化学処理(水素化精製プロセス)を経て合成されます。
燃焼時にはCO2を排出しますが、生育過程で光合成によってCO2を酸素に分解する植物を原料としています。そのため、実質カーボンニュートラルな燃料としてHVOは、欧州において軽油代替燃料として急速に普及が進んでいます。
とくにスカンジナビア地域(スウェーデン、ノルウェー、デンマーク)を中心に、2022年2月時点で600カ所以上のガソリンスタンドでHVOが取り扱われている、とのこと(アウディ調べ)。
ボルボが2024年初頭に、全ディーゼルエンジン搭載モデルの生産を終了すると発表していますが、そのおひざ元であるスカンジナビア地域で内燃機関向けのインフラ整備が進んでいるというのも、不思議な話です。
ドイツでも2023年3月から、e-fuelなどとともに、給油所での100%合成燃料の販売が政府から承認されました。
すでにアウディは、2021年6月以降に生産された直4ディーゼルターボについて、HVO100の使用を承認しました。3L V6ディーゼルターボについても、2022年2月中旬時点で製造されたモデルすべてにつき認証。フォルクスワーゲンブランドでは、同型エンジンを搭載したトゥアレグにHVOを使うことが可能とされています。
HVOと軽油の価格差は約1割。積極的に使いたくなる値付けだ
取り扱う事業者によって、呼び名こそHVO100だったりRenewable Dieselを略したRD100だったりするので少々ややこしいのですが、基本的には同様のものを指します。
マツダが供給を受けているネステ社が、欧州向けに生産しているHVO100の量は、年間で約520万トンに達するそうです。もっとも、シェアだけを見れば、北米向けの年産約540万トンを合わせてもHVO100はすべての自動車向け燃料のうちの数%ほどにすぎません。
それでも、昨今話題のガソリン車向け合成燃料(たとえばe-Fuel)の供給量が年間数万トンレベルであることと比べると、欧州においてHVOはすでにかなりのボリュームで、環境に優しいモータリゼーションの取り組みを支えていると言えるでしょう。
注目すべきは、HVO100のCO2削減効果です。アウディが2021年に発表した試算によると、化石燃料由来のディーゼル(軽油)と比べて70~95%もの削減効果が期待できるといいます。
同様に、マツダが2023年半ばからスーパー耐久シリーズで実戦投入しているNESTE社製HVO100をもとにしたCO2削減率は、「つくる・はこぶ・つかう」までの全プロセスを入れると実に93.7%に達すると試算されています。
これはEUが設定する軽油排出量約86g/MJと比較したデータで、「はこぶ」に関しては横浜300km圏内の国内での輸送を含んだものです。
気になる価格は、マツダ調べによれば、一般軽油がリッター当たり1.60~1.75ユーロで販売されているのに対して、HVO100は1.74~1.90ユーロほどと、おおむね1割ほど高くはなっているようです。
とはいえ、日本とは違いもともと欧州において軽油は、自動車用燃料としてはガソリンよりも高級品ということもあり、いわゆる意識高い系のユーザーにとってはそれほど負担になる価格差ではありません。だからこそ普及が進んでいる、と考えてもいいでしょう。