3.3Lユニットはすでに対応。ただし解禁は最短で2024年から
日本の自動車メーカーの中でもマツダは、クリーンディーゼル車の開発に非常に積極的に取り組んできました。2012年2月のCX-5向け2.2Lを皮切りに、SKYACTIVE-Dと名付けられた新世代クリーンディーゼルエンジンを市販化。1.5L/1.8Lとバリエーションを増やしながら、現在ではロードスターとMX-30、軽自動車を除くほとんどのラインナップに設定しています。
リリースベースでは、SKYACTIV-D搭載車は2019年に国内累計販売台数累計50万台を達成しました。2023年からは次世代のラージ商品群向けに直列6気筒の3.3L SKYACTIV-Dを投入するなど(国内はCX-60から)、BEVトレンドが奔流のように押し寄せる中で、内燃機関の新たな価値を提案し続けています。
しかも早ければ2024年には欧州において、この3.3Lディーゼルエンジンに対してHVO100燃料の使用を解禁する計画まで、公表されました。
そもそもCX-60に搭載されているディーゼルエンジンは、ハード的にはすでにHVO100に対応しています。つまり今、そのままの状態でHVO100を給油しても、エンジンが壊れることはありません。
ではなぜ、解禁がすぐすぐではなく2024年になってしまうのでしょうか?そして日本向け商品のバイオディーゼル燃料対応は今後、どのような展開が予定されているのでしょうか??
その背景と事情、今後の展望について、マツダ株式会社 パワートレイン開発本部 エンジン性能開発部長 森永真一氏に直接、お話を伺うことができました。
部品レベルでの「品質保証」が課題。税法上の取り扱いも要注意
森永氏によれば、欧州における解禁に向けての大きな課題となっているもののひとつが、長期での使用に対するさまざまな部品の保証だと言います。各サプライヤーからの賛同が得られていないために、現状では万が一の故障に対するサポートが不誠実なものになりかねない、という懸念があるのだそうです。
「欧州のユーザーからはHVO100を入れてもいいだろうか、という問い合わせが少なくありません。しかし今は、入れても大丈夫だけれど部品に対する保証には対応していません、と答えるしかないんです」(森永氏)
実はこれこそが、「走る実験室」と言われるスーパー耐久レースにマツダが積極的に取り組む、ひとつの大きな理由です。燃焼技術やインジェクション関連の噴射コンポーネンツなどの信頼性を、レースという極限状態の中で長期にわたって検証することで、部品の品質に対する悪影響がないことを実証する=商品としての品質が担保されていることを確認するための取り組みに、他なりません。
マツダはスーパー耐久シリーズという舞台において、2021年からCNFへの対応技術を熟成、2023年からは第二段階として欧州HVO燃料への対応に向けた検証に取り組んできました。そこで得られたデータと知見をもとに最短で2024年には、欧州においてHVO100の使用に対するメーカー保証の継続が、宣言される予定です。
一方で、日本のCX-60はどうなるのでしょう? 実質的に日本仕様もHVO100には対応可能だと言います。けれど、今のところは日本において解禁宣言を出すのは、現実的ではなさそうです。なぜなら、そもそもHVOを一般的に手に入れることができないからです。
それではなぜ日本で、HVOが一般向けに販売されていないのでしょうか。それは軽油に課せられる実質的な負担が、ガソリンと比べて少なくなっているためです。具体的には、ガソリンのガソリン税にあたる軽油引取税がそもそも安く、さらにガソリン税のように消費税がかかりません。
だからこそ、軽油取引税における「軽油」の定義に合致することが求められるのですが、HVO100は軽油に対して比重がやや軽く、現行の規格にはあてはまりません。つまり税法上の規格を変更しなければ、HV100を軽油として正規に販売することはできないことになります。
もしもそれを無視して無許可で販売した場合は、脱税という罪に問われます。(一部、バイオディーゼルの製造・販売を行う事業者の中には、車検証に廃食油併用であることを併記すれば問題にならない、としている場合もあります)