【付記】ライフサイクルアセスメントでの試算は「考え方」によって違いが
走行時のCO2排出量のみに限れば、BEVは非常に環境に優しく、内燃機関搭載車の評価は厳しいものにならざるを得ません。
しかし自動車使用時以外の部品および車両製造時や廃棄・リサイクル段階まで含めたCO2排出量を定量的に評価する、ライフサイクルアセスメント(LCA:CO2等等価排出量)という計算手法に則ると、環境負荷に関する評価が変わってくる可能性があります。
2019年に発表されたマツダのLCA研究活動に関するレポート「Estimation of CO2 Emissions of Internal Combustion Engine Vehicleand Battery Electric Vehicle Using LCA」の中では、(a)EU(b)日本(c)米国(d)中国(e)オーストラリアの5カ国について、エリアごとの電力の状況や燃費/電費、生涯走行距離といった要素を加味した、CO2排出量の優位性を評価するグラフが掲出されています。
そこでは生涯走行距離20万km、BEVは16万kmで駆動用バッテリーを交換する、という仮定でシミュレーションを実施。欧州と日本の環境下では製造時に大量のCO2を排出するBEVがディーゼルに対する「遅れ」を挽回するのに、走行距離約11万km走る必要がある、と試算されています。
しかもいったんは逆転した排出量が、BEVの駆動用バッテリーが交換される16万km付近で再逆転、ディーゼルの方がトータルでのCO2排出量が少なくなり、さらに20万km時で廃棄・リサイクルされる段階でもわずかにBEVのほうが環境負荷が多い、という結果が出ています。
つまり、このどこかの段階でHVOを利用し始めれば、少なくとも現状の発電環境やバッテリー製造の過程を踏襲している限り、クリーンディーゼルはBEVよりもLCAでの環境負荷が少なくなる、ということが推察されるわけです。
BEVが環境に優しくない!というわけでは決してない
だからと言ってBEVが環境に優しくない!というわけでは決してないので、ご安心を。
たとえばフォルクスワーゲンが2019年に発表したEV(e-ゴルフ)とディーゼル車(ゴルフTDI)のLCA比較では、20万km時点でのLCAは圧倒的に電気の力が優位である、と結論付けています。
しかも将来的にリチウムイオンバッテリーの製造段階でのCO2排出量が25%削減され、充電の原資も再生可能エネルギーオンリーとなることで、その差がますます開いていく可能性が大きいことを示唆しています。
LCAに関しては日産もわかりやすい指標として公式HPで試算データを公表しています。リーフ、アリア、サクラについて、同クラスのガソリン車との対比ではLCAを約17~32%削減していると言います。さらに日産では生産段階だけでなく、廃棄段階でもバッテリーの積極的リサイクルに取り組むなど、環境負荷低減の可能性を模索しています。
試算によっては、HEVのLCA評価がトップに躍り出る場合もあるようです。ちなみにエネルギー効率の観点に立った場合、HEVに合成燃料100%を使うのがもっとも効率が高い、という研究報告もありました。
CN達成に向けてのクルマ動向を総括してみるなら、JAMAが2022年9月に発表した「2050年カーボンニュートラルに向けたシナリオ分析」というレポートも参考になります。
JAMAは2050年CN達成に向けて全力を傾けています。そのためにIEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)が提示した完全なるBEV・FCEV化というシナリオをベースに、削減目標を達成する可能性について異なるシナリオについても検証しています。
そこでは、完全ではないけれど電動化を積極的に進めるシナリオに加え、CN燃料を積極的に活用するケースも検討し、その結果、BEV・FCEV向けの脱炭素化を徹底した電気の供給とともに、今後も販売台数が飛躍的に伸びる途上国や、先進国においてもすでに販売されている車両のために、CN燃料が必要である、と指摘しています。
燃料の供給や発電インフラ、クルマの使われ方といった地域性の違いを精密に見極めながら、それぞれのエリア事情に最適化されたクルマたちを開発・販売していく必要性は今後、ますます高まっていくことになりそうです。
本当の意味での「マルチパスウェイ」という目線に立てば、スーパー耐久シリーズでの「共挑」は、非常に理にかなった取り組みなのだということを、改めて感じました。来シーズンはより多くの自動車ファンに、注目してもらえることを期待したいものです。