「そのまま使える」ことを目指して日本でも公道にてテスト
とはいえ事業所向けには特例として、ディーゼル車へのHVO100販売がすでに始まっています。たとえば伊藤忠エネクス株式会社は、NESTE社のリニューアブルディーゼル(RD)を調達、グループが運営する東京都内の給油所において、公道実証を目的とする配送トラックなどへの給油販売を行っています。
また、大阪・関西万博関連工事を担う竹中工務店との協業により、現場で使用する建設重機などに対してRDを使用した際のエンジンへの影響についての検証が実施されています。同様の取り組みは、事業所で利用する乗用車にまで枠が広がっているようです。
国内では、ユーグレナがミドリムシ由来の第三世代バイオディーゼルを軽油に10%混合した燃料を、2021年に初めて一般向けに市販して話題になりました。ただしこれは10%のみの混合比率で、しかもあくまで試験的な2日間限定の取り組みです。
ユーグレナはスーパー耐久では、2023年半ばまでマツダにHVO100を提供していました。今後はマレーシアにおける合弁事業として大型プラントを建設し、本格的なHVO事業へと乗り出すことを明らかにしています。
欧州に比べれば、そうとう出遅れ感のある日本におけるバイオ燃料の普及活動ですが、東京都が「バイオ燃料活用における事業化促進支援事業」を公募、助成を行うなど、確かな変化は起きつつあります。HVOに限らず、バイオエタノール、e-fuelといったCNF導入には、JAMA(一般社団法人 日本自動車工業会)からも、たびたび要望的な形でのレポートが提出されています。
国策レベルでも、燃料のカーボンニュートラル化に対する検証は進められているようです。令和2年には環境省 資源エネルギー庁に対して、三菱総合研究所から「令和 2 年度燃料安定供給対策に関する調査等(バイオ燃料を中心とした綿国の燃料政策の在り方に関する調査)」と題したレポートが提出されています。そこでは、バイオエタノール、バイオディーゼル燃料、その他の代替燃料の導入状況や導入促進策、研究開発動向等に関する諸外国の動向がかなり細かく分析されています。
また、令和5年4月には経済産業省から、「エネルギー源の環境適合利用に関する石油精製業者の判断の基準」と題した告示が出されました。石油精製業者が化石エネルギー原料の有効な境適合利用を図るにあたって、バイオエタノールを混和して自動車用の燃料を利用する、とされています。
利用するバイオエタノールの量は、2023年~2027年度までが原油換算で年度ごとに50万キロリットルが目標。さらに2028年~2032年度までの5年間は、次世代バイオエタノールの利用目標量が、各年度ごとに原則1万キロリットルに設定されました。
おそらくは今後も、確実に進む燃料のカーボンニュートラル化に向けて今、まさに万全の体制をとるために、マツダはレースシーンでの検証・研究を進めています。
「マツダの取り組みとして将来的には、燃料の性状に応じて燃焼を最適化するプログラムの実現も目指しています。クルマ自体はそのままに、HVOが「ドロップイン」(それ用の改造やキャリブレーションなしで使用)で使えるように認証できれば、ユーザーに負担をかけることはありません」と、森永氏は語ってくださいました。
スモール商品群のSKYACTIV-DもドロップインOK。ただし・・・
さて、実際に法整備が進み、HVOが一般的にガソリンスタンドなどで販売されることになったと仮定しましょう。ここで気になるのは、CX-60よりも前の世代でも使ってもいいのか、ということです。いわゆるスモール商品群と呼ばれるクルマたちに搭載されている1.5L~2.2LのSKYACTIV-Dには、給油しても大丈夫なのでしょうか。
森永氏によれば、ここでもマツダはドロップインでの対応に向けた、検証を行っているそうです。
2022年6月から、日本国内では中日リース株式会社系列の名港潮見給油所において、ユーグレナが手掛ける「サステオ」の販売が始まっています。バイオディーゼル混合率は20%なので、車両側のキャリブレーションなどは必要ありません。
価格はリッター300円と、軽油(2023年11月21日現在:132円/L)と比べると、やはりお高い印象ではありますが。
一方、森永氏によれば初代CX-5以降に販売されたマツダのディーゼルモデルはすべて、HVO100を使っても壊れることはないのだそうです。ただし、先に触れた「保証」の対象にはならないことに加えて、フィーリング面でちょっとした変化が起きる可能性があるそうです。
原因は、軽油よりもセタン価が高い(約30%)=着火しやすいというHVOの性質によるもの。具体的には、エンジン回転数によっては燃焼するポイントが少しずつズレるケースが考えられるために、ディーゼル特有のノック音の発生具合や音量が、軽油使用時とは異なってくる可能性があるのだそうです。
商品としての品質の問題というわけですが、裏返せば「法的そして保証面での問題をクリアした上で、ユーザーがフィーリングの変化をカーボンニュートラルフューエルならではの特性として理解してもらうことができるのなら、スモール商品群に対してもマツダが解禁を宣言する可能性はあります」(森永氏)。
その場合はもちろん、メーカー保証が継続適用される、と考えてもいいでしょう。