しなやかな足まわりと高い静粛性はそのままに
今回は横浜のみなとみらい周辺を短時間試乗したのみだったが、それでもしなやかな足まわりがもたらす快適な乗り心地や、風切り音やロードノイズがうまく抑えられた静粛性の高さなどは、元祖eトロンからそのまま引き継いでいるように思えた。
ステアリングホイールやスロットルペダル、そしてブレーキペダルの操作に対する反応も自然で、なにも知らされずに運転しても違和感を覚えることはないだろう。
唯一、コースティング時にスロットルペダルを踏み込むと、バックラッシュのように「カクッ」という軽いショックが認められたが、これも目くじらをたてるほどのことはない。それよりも、たとえアクセルペダルを“ドンッ”と踏み込んでも、鬼面人を驚かすような急加速を示さないところに、アウディの自動車メーカーとしての矜持を見るような思いがした。
では、ライバルと比較してQ8 eトロンにはどのような違いがあるだろうか?
テスラ モデルXとの比較では、Q8 eトロンのほうがハンドリングや乗り心地が圧倒的に洗練されているように感じるはず。また、運転席周りの見た目や操作性も、モデルXのほうが古くさく思える。特徴的なファルコンウィングドアのせいでボディ剛性が低い点もモデルXの弱点。
一方、テスラ独自の急速充電“スーパーチャージャー”の充電出力や施設数の充実度でいえばテスラに分がある。したがって、自宅近くにスーパーチャージャーがあるユーザーがテスラに惹かれる気持ちはわからなくもない。
EQE SUVはインテリアの未来感とソフトな乗り心地が◎
ライバルと言えば、メルセデスEQE SUVはQ8 eトロンよりも乗り心地がさらにソフトで、インテリアは未来感に溢れている。けれども、ボディの振動吸収特性が悪いのか足まわりの設計に原因があるのかはわからないが、サスペンションに大きなショックが伝わったとき、ボディのどこかに微振動が残る傾向はいただけない。
個人的には、デザインの完成度もQ8 eトロンのほうが上だと感じる。
プラグインハイブリッドのBMW XMは、Q8 eトロンの直接的なライバルとはいえないかもしれない。ハードウェア的にXMの出来がいいのは間違いないが、BMW Mが手がけたXMがダイナミック性能最優先の足まわりなのに対して、Q8 eトロンは高い快適性が売り物だからだ。
正直に言って、Q8 eトロンの商品性にはなんの不満もない。それよりも心配なのは、2033年までに完全なBEVメーカーとなることを目指すアウディの「フォルシュプラング2030」という中期計画のほうだ。
ちなみに2022年のBEV生産台数でいうと、アウディは12万台弱で、17万台強のBMWにも15万台弱のメルセデスベンツにも及ばない。しかも全生産台数に占めるBEVの比率は7%に過ぎない。それを、10年後に100%とするというのは、いかにも拙速ではないのか。
しかも、この目標を達成するため、近年のアウディはエンジン車やハイブリッド車の新型車投入数が極端に少ない。おかげで話題性が乏しく、ブランドの認知度を急速に低下させているように思える。
将来的な全面BEV化はやむを得ないかもしれない。けれども、だからといってブランドの存在感を薄めてしまっては、いくら今後いいBEVを出しても市場で受け入れてもらえなくなる恐れがある。
いまさら新型車の開発計画を見直すのは難しいかもしれないが、スムーズな全面BEV化を促す戦略の見直しも必要なのではないのか。アウディを愛して止まない私には、そう思えて仕方ない。(文:大谷達也 写真:永元秀和)
アウディ Q8 スポーツバック eトロン 55 クワトロ Sライン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4915×1935×1620mm
●ホイールベース:2930mm
●車両重量:2600kg
●モーター最高出力:300kW(408ps)
●システム最大トルク:664Nm
●トランスミッション:1速固定式
●駆動方式:4WD
●バッテリー種類:リチウムイオン
●総電力量:114kWh
●WLTCモード一充電EV走行距離:501km
●タイヤサイズ:255/50R20
●車両価格:1317万円