近年デザインで注目を浴びることの多いBMW。2023年10月に開催されたジャパンモビリティショー2023(以下、JMS)では、今後のBMWデザインの未来を示す「ビジョン ノイエ クラッセ」がお披露目されました。今回そんな未来のBMWについて、BMWグループのデザイン部門を指揮するエイドリアン・ファン・ホーイドンク氏にインタビュー。そこではデザインの今後の方向性についてや、どのようにしてデザインを生み出すかなど実に興味深い話が飛び出しました。
(聞き手:MM編集部 川内優作、写真:井上雅行)

「ビジョン ノイエ クラッセはこれまでのどのモデルよりも良くなりました」

画像: ビジョン ノイエ クラッセのインテリア。多くの操作スイッチはセンターディスプレイへ集約し、情報の多くはフロントガラスのヘッドアップディスプレイに映し出す。

ビジョン ノイエ クラッセのインテリア。多くの操作スイッチはセンターディスプレイへ集約し、情報の多くはフロントガラスのヘッドアップディスプレイに映し出す。

──続いてインテリアに焦点を当てたいと思います。これまでのBMWのインテリアデザインは、操作系がすべてドライバー側に向いている、いわゆるドライバーオリエンテッドなデザインが特徴だったと思いますが、ビジョン ノイエ クラッセでは正面を向いた包括的なデザインだと感じました。今後のインテリアデザインに関する方向性や、これまでとの違いを教えてください。

ホーイドンク氏:実は、ノイエクラッセは依然として非常に運転する悦びを実感できる「ドライビングセンセーション」に注力しているんですね。例えば、ハンドルのグリップもより良くなっていますし、コントロールもしやすいように改善しています。さらにインフォテインメントに関しても、フロントガラスに大きく映し出すヘッドアップディスプレイは非常に見やすくなっています。こうしたすべてのことがドライビングセンセーションのさらなる向上を意図しているものです。

またセンターディスプレイは、実はアシンメトリーなデザインになっています。なぜならそれがコクピット感をドライバーに感じさせるからです。またそれだけではなく、ステアリングホイールを含むすべてのラインはドライバーにコクピット感を強く意識させています。ドライバーが運転しているときは、それにフォーカスできるような角度にするなどの工夫を施しています。

そういう意味で、ビジョン ノイエ クラッセはドライビングセンセーションを大事にしています。ちなみに私はこれに乗りましたが、これまでのどのBMWのモデルよりも良くなったと感じています。

「私のデザインへの夢って、もうたくさん叶えているんですよね」

画像: BMWらしいデザインフォルムや伝統的なデザイン要素は継承しつつ、新しい技術との融合をイメージすることが今後のデザインにおけるポイントだという。

BMWらしいデザインフォルムや伝統的なデザイン要素は継承しつつ、新しい技術との融合をイメージすることが今後のデザインにおけるポイントだという。

──続いての質問です。こうしたコンセプトモデルのような、未来を見据えたモデルのデザインはどのように考えるのですか。つまり未来で受け容れてもらえるのかを、どうやって考えるのですか。タイムスリップは出来ないから、とても難しいと思ってしまいます。

ホーイドンク氏:とても面白い質問で、また非常にキークエスチョンだと思います。おっしゃるように、誰も将来を見ることはできないです。けれど例えば、技術や社会の変化はある程度先を見ることができますよね。そうした最新のテクノロジーが目指す方向や、社会がどのように向かっていくかなどの少し未来が見えているものと、100年以上続くBMWのヘリテージ、すなわち我々が受け継いできたものをそれぞれ解釈して、それらを組み合わせてまずデザインを考えます。

例えばビジョン ノイエ クラッセでいうと、プロポーションはとてもBMWらしいもので、2.5BOXのシルエットがまさに典型的なものです。あとは、クリーンな雰囲気は往年のBMWデザインを彷彿とさせます。また、ラインの入れ方もすごく精緻に計算されています。こうしたヘリテージを表現しつつも、それと新しいテクノロジーをどのように組み合わせるかというのを解釈して、あのようなデザインにしました。

また内装に関しても、ドライバーのことを大切に尊重していますので、ドライバーがクルマを好きになってもらえるようなものをきちんと作っています。それに加えて、我々に適した最新のテクノロジーを融合して、将来のデザインを考えています。

これからビジョン ノイエ クラッセのデザインが体現されるモデルが登場する2年ぐらいの間にテクノロジーはさらに進化していくと思いますが、我々は常にその進化の最前線にいたいと思っていますし、それを目指しています。そして、それが他との差別化につながると思います。

事実として、毎回私たちは新しいデザインを出す時にはそれを実現してきています。その度に、たくさんの方がその変化を感じられたと思います。つまり、未来はわからないけれど、いま分かっている方向性を踏まえてBMWらしさをどういう風に解釈するか、を考えてデザインしています。

画像: ホーイドンク氏は、インタビュアーの質問に対して優しく落ち着いた様子で答えてくれた。時に笑顔を見せながら話す姿からは、デザインへの熱い想いが伝わってきた。

ホーイドンク氏は、インタビュアーの質問に対して優しく落ち着いた様子で答えてくれた。時に笑顔を見せながら話す姿からは、デザインへの熱い想いが伝わってきた。

──電動化が進み、エンジンを積まないBEV(完全電気自動車)が増えてくるとデザインの自由度が大きく広がると思われます。それを踏まえてホーイドンクさんは、今後どのようなクルマをデザインしたいですか。

ホーイドンク氏:実は私の夢って、もうたくさん叶えているんですね。というのは、テクノロジーがどんどん進化していることによってデザインは大きく変わっています。例えば日本でも2024年早々に納車を開始する新世代のMINIがそうなんですけれども、電動化したMINI、さらに進化したインテリジェンスなども含めて夢だったことがどんどん叶ってきています。それはビジョンノイエクラッセについても言えることですし、ロールスロイスの初のBEVであるスペクターも同じですね。

これらの最近ローンチされたモデルたちは、おっしゃられたようなBEVによる自由度の高いデザインを実現しています。私たちのエンジニアはデザインチームにすごく協力してくれますし、そのおかげで他とのデザイン上の差別化もしっかりとできています。なので今のところ不満がとくにありません。けれど、私たちの仕事は常に新しいコンセプトを模索して探してきて、それを形にすることです。唯一の不満があるとすれば、その時間が足りないことくらいですね(笑)

──今日は大変貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。興味深い内容ばかりで楽しかったです。

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