完全な復刻版ではなく、レトロだけど古さを感じさせない新しいもの
ひとつひとつの操作が楽しいと感じるクルマに、そう出会えるものではない。そして、そう感じるのは、クルマに惹かれる部分があるからにほかならない。興味がなければ、感心こそすれ、心は動かないからだ。
FJクルーザーには、心が動き、そして驚かされた。まずはワイパー。なんとアームが3本もある。雨が降っていなくてもどんな動きをするのか、誰もが絶対に試したくなるだろう。
室内に用意されている装備もどれもがとても興味深いものばかりだ。気持ちいいほど直線的なラインを多用したセンタークラスターはどこか懐かしさを感じるデザインだ。シフトレバーも、まるで昔流行った水中花入りのマニュアル式のシフトレバーみたいな長さだ。でもそのどれもにワクワクしているのも事実だ。視線を上に移せば、直立したフロントガラスから見えるいつもの景色も不思議と新鮮に見える。
観音開きドアだってそうだ。助手席が空いていても、わざわざ後席に乗り込みたくなる。リアの居住性が広いとか狭いとかというよりそこからの景色はどのように見えるのか、ドアはどのように開くのだろうかとドキドキするのだ。さらに、高いところから眺めたくなるホワイトルーフは、FJ40ランドクルーザーを彷彿させる。丸目ヘッドライトもレトロな雰囲気を持たせているが、実はFJクルーザーは、まったく違うコンセプトで開発されていた。
チーフエンジニアの西村氏は、FJクルーザーを「まったく新しいジャンルのクルマ」だと言う。そして「このクルマを見て、誰もがFJ40、BJ40を思い浮かべるでしょう。でも、完全な復刻版にするとそれで終わってしまうので、見た目も性能もどう表現するか悩み抜いてたどり着いたのが、レトロだけど古さを感じさせない新しいものというコンセプトだった」と続けた。
開発者が狙った新鮮さはボディカラーにまず現れている。FJクルーザーに用意されるのは、ツートンイエロー/ツートンブリックレッドメタリック/ホワイト/ツートンブルー/ツートングレーメタリック/ツートンブラック/ツートンベージュの7色だが、そのどれもがFJクルーザーにしか使われていないという。つまり、あのインパクトあるイエローもブルーもFJクルーザー以外に使われていない。そこには色にもプレミアム性を持たせたいとの狙いがある。
余裕あるトルクが2トン近くある重量級ボディをグイッと引っ張る
搭載エンジンは4L V6のみ。組み合わされるトランスミッションは5速ATと、決してエコなクルマではないが、世の中にはこんなクルマもなきゃ面白くないというのも本音ではある。
正直に告白すれば、FJクルーザーに乗る前は、あまり走りには期待していなかった。レトロな雰囲気を味わいながらのんびりと走るクルマだと思い込んでいた。つまり、カッコだけのクルマだと。
しかし、走り出してみるとほんの数mでその思いは一変した。余裕あるトルクが2トン近くある重量級ボディをグイッと引っ張るのだ。その走りは“軽快”と表現してもいいかもしれない。その軽快さはドライバーにも伝わり、ハンドルを握っているとボディの大きさを次第に感じなくなる。
オフロードにも踏み入れたが、そこはまさに主戦場で安心感あふれる走行性能を見せてくれた。また、コーナリングも不得意ではなく、その気になればワインディングを攻めることだってできそうだ。本当に、クルマは実際に乗ってみないとわからない。
314万円からという価格にも驚かされた。西村氏は「個人的には300万円を切る価格で出したかった」と言うが、日本専用部品も装着されているのでユーザーメリットは大きい。日本専用といえば、サブミラーもそうだが、これはあまりありがたくない。せっかくの雰囲気が台無しだ。(文:Motor Magazine編集部 千葉知充/写真:島村栄二)
トヨタ FJクルーザー カラーパッケージ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4635×1905×1840mm
●ホイールベース:2690mm
●車両重量:1940kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3995cc
●最高出力:203kW(276ps)/5600rpm
●最大トルク:380Nm(38.8kgm)/4400rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:324万円(2011年当時)