この連載では、昭和30年~55年(1955年〜1980年)までに発売され、名車と呼ばれるクルマたちを詳細に紹介しよう。その第86回目は、スポーツマインドたっぷりの小気味よい走りで人気を得た、ホンダ シビック1200RSの登場だ。(現在販売中のMOOK「昭和の名車・完全版Volume.1」より

ハイパワー路線を捨てたと思われたホンダが
ファンに応えてラインナップしたホットモデル

ハイパワー至上主義をとっていたホンダが、大きく転換を図り始めたのが昭和45(1970)年前後だ。高回転かつ高出力のスポーツエンジンを売り物にしていたホンダは、まず昭和46(1971)年6月に軽自動車のライフを発売し、その上位モデルとして昭和47(1972)年7月にシビックを送り出した。

画像: 斜め後ろからのフォルムは非常にスタイリッシュだ。ゴム製のバンパーガードを前後に備え、リアには2個のバックランプを装備していた。リアウインドウは熱線プリント式となっている。

斜め後ろからのフォルムは非常にスタイリッシュだ。ゴム製のバンパーガードを前後に備え、リアには2個のバックランプを装備していた。リアウインドウは熱線プリント式となっている。

軽自動車よりひと回り大きな台形フォルムのFF方式の2ボックスカーで、随所にヨーロッパ的な合理性を盛り込んでいる。ベーシックに徹した国際商品(グローバルカー)として開発され、コンパクトなボディの中に広いキャビンスペースと小気味良い走りを巧みにバランスさせていた。

注目のパワーユニットは新開発のEB1型4気筒SOHCだ。ボア70.0mm×ストローク76.0mmのロングストロークで、排気量は 1169ccとなる。デビュー当初は最高出力 60ps /5500rpm、最大トルク9.5kgm/3000rpmのベース仕様と、圧縮比を8.1から8.6に高めたGL用の69ps/5500rpm、 10.2kgm/4000rpm仕様が用意された。

そして昭和48(1973)年5月に☆(スター)レンジを持つ無段変速ATのホンダマチックを投入した。同時に高出力型エンジンを積むGLは、トルク特性の最適化を図り66ps/5500rpm、10.0kgm/3000rpmと し ている。

また、昭和48(1973)年12月には1.5Lの4ドアモデルを設定した。この時65ps/ 5500rpm、 10.5kgm/3000rpmのED型CVCCエンジンが加えられたが、かつてのホンダパワーを知るユーザーには、動力性能が物足りなかったのも事実だ。

画像: 元祖ホットハッチと呼ばれるのにふさわしい、まとまり感のあるフォルムを持っている。前後オーバーハングの短さから機敏な走りを予感させる。

元祖ホットハッチと呼ばれるのにふさわしい、まとまり感のあるフォルムを持っている。前後オーバーハングの短さから機敏な走りを予感させる。

そうしたホンダファンの声に応えて投入されたのがRSだ。RSは「ロード・セーリング」を略したもので、ハイウェイクルージングを意識した快速2ボックスとして位置づけられた。スタイリングはGLとほとんど変わっていないが、前後のバンパーにラバー製のオーバーライダーが装着され、155SR13ラジアルタイヤやブラック塗装のホイールでスポーティムードを盛り上げた。

リアにトランクを持つ2ドアと、ハッチゲートを備えた3ドアの2タイプがあり、ともに最低地上高は165mmと、GLより10mm低い。そのためルックスは安定感が増しスポーティなムードとした。

インテリアも大幅にグレードアップされている。間けつ式ワイパー、防眩ルームミラーなどが追加されて、ペダルもスポーティなレイアウトにアレンジされた。ダッシュボードには木目パネルが貼られ、2本スポークのステアリングやシフトノブもウッドとなる。もちろん、フットレストも標準装備だ。

エンジンはEB1型1169ccで、圧縮比もGLと同じ8.6だが、ケイヒン製のCVキャブを2連装し、 76ps/6000rpm、10.3kgm/4000rpmまでパワーアップされている。カタログスペックは平凡だが、アクセルレスポンスはすこぶるシャープで、6500rpmまでストレスなく回り切りホンダファンの心をつかんだ。トランスミッションはシビックとしては初めてとなる5速MTだ。

サスペンションは前後ともにストラット式の形式こそ変わらないが、こちらもハードに締め上げられ、フロントのバネレートは1.9kg/mmから2.52kg/mmに、 リア も1.36kg/mmか ら2.13kg/mmへ と、 30%ほど強化された。

画像: ノーマル の60ps、GLの69psに 比べ、RSはCV型 可変ベンチュリー・キャブを2連装して76psを絞り出していた。トルクカーブもフラットで使いやすかった。

ノーマル の60ps、GLの69psに 比べ、RSはCV型 可変ベンチュリー・キャブを2連装して76psを絞り出していた。トルクカーブもフラットで使いやすかった。

ショックアブソーバーの減衰力もアップされ、峠道では水を得た魚のような軽快な走りを披露している。ブレーキはフロントがディスク、リアはリーディングトレーリングという当時のスポーティカーとしては標準的なものだ。

5速MTを介しての最高速は160km/h(カタログ値)である。当時の1.2LのFF2ボックスとしては、文句なしの動力性能といえるだろう。しかしそれ以上に楽しかったのがハンドリングだ。タックインなどクセのある部分もまだ強かったが、それを含めてマニア心をくすぐるFFスポーツならではの軽快な走りを存分に堪能できた。

シビックRSの走行性能は、サーキットでも存分に発揮され、当時常勝を誇っていたB110サニーを苦しめている。とくに富士スピードウェイで開催されていたマイナーツーリングでは群を抜く速さを見せつけ、シリーズチャンピオンに輝いた。

画像: ウッドステアとシフトノブを装備しているのも嬉しい。クロスレシオ4速+オーバートップ の5速MTで、100km/hクルーズ時で3100rpmの低回転を可能にしていた。

ウッドステアとシフトノブを装備しているのも嬉しい。クロスレシオ4速+オーバートップ の5速MTで、100km/hクルーズ時で3100rpmの低回転を可能にしていた。

強烈なスポーツ魂を持ったシビックRSだったが、その寿命は短く、昭和50(1975)年8月のニュー・シビックCVCCの登場を機にカタログから姿を消したのは残念なことだった。

EPISODE<ホンダの小型乗用車第2弾>

画像: EPISODE<ホンダの小型乗用車第2弾>

ホンダの小型乗用車市場進出の第2弾がシビックである。当時の大衆車市場はFRの20カローラと210サニーが鎬を削る状態だったが、シビックはFFレイアウトによる圧倒的に広い室内と、3.5mしかない短い全長がもたらすキビキビした運動性能で独自のユーザーを開拓した。FF2ボックス車の先駆的な役割を果たした。

ON THE CIRCUIT

画像: ON THE CIRCUIT

モーターマガジン誌:昭和50(1975)年1月号でシビックRSとチェリーGX、レオーネRXを筑波サーキットで比較。「RSのエンジンの吹け上がりは小気味良く、加速レスポンスはなかなかのもの。コーナーではデリケートな操作が要求されるものの3車の中では一番速い1分23秒33のラップタイムを叩き出した」とある。

ホンダ シビック1200RS(SB1型)諸元

●全長×全幅×全高:3650×1505×1320mm
●ホイールベース:2200mm
●車両重量:705kg(3ドア)
●エンジン型式・種類:EB1型・直4SOHC
●排気量:1169cc
●最高出力:76ps/6000rpm
●最大トルク:10.3kgm/4000rpm
●トランスミッション:5速MT
●タイヤサイズ:155SR13
●新車価格:76万5000円

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