若者の間でFFハッチバックブームを巻き起こす
後のファミリーカーに大いに影響を与えた名車
ファミリア1500XGは、1970年代までの若者向きのクルマといえばFRのクーペというイメージを、FFのハッチバックへ一大転換させたクルマと言える。登場したのは昭和55(1980)年の6月だ。
![画像: 欧州風の2ボックススタイルを実現したファミリア。XGでは窓枠を黒塗りすることで、完成度の高いスタイリングにスポーティムードを加えることに成功。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2024/11/02/d7745266e15c2f514f3b49f9060f646e3fe659e1.jpg)
欧州風の2ボックススタイルを実現したファミリア。XGでは窓枠を黒塗りすることで、完成度の高いスタイリングにスポーティムードを加えることに成功。
東洋工業(現・マツダ)は、昭和52(1977)年にFRながらハッチバックのファミリアを投入し市場基盤を作っていた。これも一定の支持を受けていたが、時代はFFとなりつつあった。
FRの場合、エンジンが縦置で室内を縦置きのトランスミッションとプロペラシャフトが貫通するため、どうしてもスペース効率が悪い。FFにすれば、エンジンが基本的に横置きとなり、そのまま前輪で駆動力を取り出せるためボンネットの中だけでパワートレーンが完結する。
このようなことから室内スペースが広く取れることはわかっていたが、そのためには横置きできるコンパクトなエンジンやフロントドライブシャフトの性能向上が必要だ。FRと異なりFFはドライブシャフトに舵角を与えなければならないために、優れた等速ジョイントを持ったドライブシャフトの開発には各メーカーでも苦労した。
そうした問題も1980年代になると、技術的進歩で解決できるようになった。さらにコンパクトさは当時の潮流ともいえる省燃費に通じることから積極的に採用され、その流れに乗ることができた。そして発売されたファミリアはFFハッチバックの代表的存在となり、主に若者層の間でブームともいえる時代を作ったのだ。
1500XGに搭載されるエンジンは、FF用に新開発されたE5型だ。水冷直列4気筒SOHCで、V字配列のバルブ、クロスフローポート、多球形燃焼室を採用している。最高出力85ps/5500rpm、最大トルク12.3kgm/3500rpmという性能は目立つスペックではないが、マツダで定評のあった低・中速域での太いトルクに加え、高速域でも伸びを感じさせるものだった。
![画像: エンジンは新開発のE5型直4SOHC。けっしてパワフルなユニットではなかったがロングストロークで低回転域が使いやすく、軽量ボディを気持ち良く引っ張った。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2024/11/02/6fd620e40ca6f8507237d5eba048a010168335a0_xlarge.jpg)
エンジンは新開発のE5型直4SOHC。けっしてパワフルなユニットではなかったがロングストロークで低回転域が使いやすく、軽量ボディを気持ち良く引っ張った。
さすがにスポーティエンジンとまではいえないものの、スペック以上の性能を感じさせるものだった。ちなみに1.3Lエンジン搭載車も設定され、そちらに搭載されたE3型は最高出力74ps /5500rpm、最大トルク10.5kgm/3500rpmを発生する。
サスペンションは、マクファーソンストラット式を用いた4輪独立式だ。フロントは、ボディ側に2点で支持されるA型ロアアームを採用した。リアサスペンションは、マツダ独自開発の「SSサスペンション」とも呼ばれ、直進安定性およびコーナリング性能を高めている。
ステアリングも、ダイレクト感の高いラック&ピニオンを採用しているだけでなく、最小回転半径を4.6mとするなど、取り回しの良さも特徴だった。
エクステリアに関しては、ファッショナブルな2ドアハッチバックとして、絶大な人気を得たといえる。全体的に直線基調で、スラントノーズとすることでウエッジシェイプにし、サイドビューはベルトラインを低くして安定感を演出していた。
ハッチバックは後部扉が大きく開閉するもので、当時クラス最大を誇った。リアハッチのガラス面積が大きいため後方視界が良い点もビギナードライバーなどに支持された。
インテリアでは一部グレードを除きチルトステアリングを採用している。またフロントシートも背もたれを後方に倒すことにより後席と一体になるフルフラットシートとするなど、快適性にこだわった。リアシートの背もたれも2分割式するほか、前2段、後4段にリクライニング機構を設けていた。
走りに関してはパワーこそそこそこだが、操縦性にすぐれていたために、ワンメイクレースが行われたり、ダートトライアルでも活躍する姿が見られた。当時のダートトライアルのトップドライバーの言葉を借りると「どうにでもコントロールできる」というほどの扱いやすさを持っていた。FF車の癖を上手に抑えたのは、走りにこだわるマツダの真骨頂といえる部分だろう。
![画像: 機能性重視のオーソドックスなダッシュボード。メーター類を視認しやすい位置に並べ、その下に電装系のスイッチを集中させる堅実なレイアウトだ。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2024/11/02/c684efff6548c7f09bd6e407ee1b5b16deaad98f_xlarge.jpg)
機能性重視のオーソドックスなダッシュボード。メーター類を視認しやすい位置に並べ、その下に電装系のスイッチを集中させる堅実なレイアウトだ。
このファミリアは第1回日本カー・オブ・ザ・イヤー(1980-1981年)を受賞したのも話題となった。それに乗じて販売も伸びて、当時販売台数では絶対的な存在だったカローラを超える月もあった。そういう意味でも昭和の一時代を築いたクルマだ。
VARIATION
![画像: VARIATION](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2024/11/02/f26ebf66787e3feee5d37b54da7b148e5c036644.jpg)
シャシのバランスは取れていたが、ハイパワーを知った層からは非力という声もあった。それを解消するために、昭和58年(1983年)1月には電子制御燃料噴射を採用、さらに同年の6月にはターボモデルも設定され、続々と車種が追加されていった。マツダの力の入れ方とファミリア人気を象徴している。
TOPIC
![画像: TOPIC](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783018/rc/2024/11/02/ec5797013b387512cbff6b77ecc7d616bfa754de_xlarge.jpg)
ファミリアXGは、80-81日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。これは同賞の第1回にあたり、マツダだけでなく、日本の自動車産業にとっても記念すべき出来事となった。この後しばらくはFFコンパクトハッチのブームともいえる時代が続くことになる。ある意味ファミリアがもたらしたムーブメントと言える。
マツダ ファミリア・ハッチバック1500XG(BD1051型)諸元
●全長×全幅×全高:3955×1630×1375mm
●ホイールベース:2365mm
●車両重量:820kg
●エンジン型式・種類:E5・直4SOHCターボ
●排気量:1490cc
●最高出力:85ps/5500rpm
●最大トルク:12.3kgm/3500rpm
●トランスミッション:5速MT
●タイヤサイズ:175/70SR13
●新車価格:103万8000円