言われなければ2気筒とはわからないマナーの良さ
フィアット500は、2007年にイタリアで現行モデルとなる3代目が発表されてから、世界中で高い人気を誇っている。以降、毎年のように追加モデルが加わり、バリエーション豊かなモデルレンジが展開されている。
そんな中、今回新たに日本へ登場したのが「500ツインエア」である。搭載されるエンジンは2気筒(!)で、排気量はわずか875cc。インタークーラー付きターボ仕様とされる。
昨今、CO2排出量の削減という環境性能への取り組みは、どの自動車メーカーも積極的に行っている。そこには様々な手法があり、最近ではハイブリッドモデルだけでなく電気自動車にも注目が集まっている。しかしその一方で、電気自動車ではバッテリーが重い、バッテリーにも寿命があるなどといった課題もあり、また価格の高さから見ても、現時点ではまだ〝誰もが乗れるクルマ〟とは言えない。
フィアットは、1989年にパンダでいち早く電気自動車を発売しており、電気自動車やハイブリッドモデルも研究開発は行っており、作る技術もそれなりに備えている。だがまだ発売する時期ではないと考えているのだ。
そんな中で、フィアットが提案したのが2気筒エンジンである。これは、〝たくさん売れているモデル〟(購入しやすい価格帯のモデル、ともいえる)の責任として、将来技術ではなく、現在の問題として、適切な価格で購入でき、さらにCO2排出量が削減できるクルマというテーマに対するフィアットの回答なのだ。
さて、興味津々に乗り込んだフィアット500ツインエア。グレードは、上級仕様のラウンジである。
まず驚いたのが、アイドリング時のマナーの良さだ。というのも、2気筒という自分にとっては未知の世界だけに、もっとも近い例で軽自動車に搭載される3気筒エンジンをそのリファレンスとしていたのだが、最新2気筒の静かさや振動の少なさという面での質感は、まったく別次元であった。このツインエアには4気筒エンジン並みの振動特性とするため、バランサーシャフトが採用されている。言われなければ、2気筒とはわからないほどだった。
2ペダルのオートモード付き5速AMT「デュアロジック」を1速に入れてアクセルペダルを踏み込むと、これまた思いのほか厚いトルク感があり、スルスルと気持ち良く発進していく。
とかくエンジンに目が行きがちだが、デュアロジックのオートモードもその制御がかなり進化している。以前は、シフトアップする度にこちらがお辞儀させられるような減速感があったが、スムーズさが格段に増していた。
ツインエアにはエンジンのスタート&ストップシステムが標準装備される。水温などの条件さえ満たしていれば、減速していくとホイールが止まるか止まらないか、くらいのタイミングでかなり積極的にエンジンを止める。
ブレーキペダルの踏力を緩めると、瞬時にエンジンが再始動する。その際にはブルッと大きめの振動を伴うが、一瞬なのでさほど気にはならない。また渋滞中など、10km/h以下で走っている時にはアイドルストップしないようになっている。
試乗していて何度か経験したのは、信号待ちでブレーキペダルの踏力がちょっと緩んだ際にエンジンが再始動してしまうという状況だ。ペダル踏力に対して、かなり感度が高い。スタート時のレスポンスを考えれば、その方が実用的で安心感も高いが、でも「あ〜あ、まだ発進しないのにもったいない」などと思ってしまう。アイドルストップの機能がひとつ加わるだけで、自然とエコ意識が高まるから面白い。
ちなみに信号待ちや踏切などで、ある程度長めに止まることがわかっている状況ならば、ギアをニュートラルに入れてサイドブレーキを引けばエンジン停止状態が続く(最長2分半)ので、ペダル踏力が緩んで意図せずエンジンがかかってしまうことも避けられる。