2011年3月、2気筒エンジン「ツインエア」を搭載したフィアット500/500Cが日本市場に導入されめた。油圧式の吸気バルブシステム「マルチエア」が採用されることでダウンサイジングを実現した画期的なユニットで、大きな課題となっていたCO2排出量削減に対するフィアットの回答として大きな注目を集めた。Motor Magazine誌は上陸間もなく独自テストを行ってるので、今回はその模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年5月号より)

500のフラッグシップにふさわしい力強さを装備

高速道路でも、本線への合流〜加速〜巡航に至るまで、パワーフィールに不満はなかった。唯一気になるとすれば、巡航時は2000rpmあたりをキープすることが多くなるが、その回転域ではずっと軽いノッキングのような音と振動があることだろう。一般道では信号などで加減速があり、また一定速で走ることが少ないのでほとんど気にならなかった。試しに高回転まで回してみるとレブリミットの6000rpmまで滑らかに回る。これも驚きだ。エコも大事だが、気持ち良く走りたい時には、ちゃんとそれに応えるパフォーマンスも持ち合わせている。

インストルメントパネル中央左側にある「ECO」ボタンを押すと、エコノミーモードになる。これはエンジンの最大トルクが145Nmから100Nmに制限されるとともに、デュアロジックの変速プログラムも積極的に高いギアを選ぶものへと変わり、パワーステアリングは操舵力が軽くなる。エンジン回転数は可能な限り2000rpm以下が保たれ、ライトノッキング気味に走るフィーリングからは、かなり〝頑張ってる〟感が伝わってくる。

ただし、この状態だと、さすがに瞬発的な加速力は望めないので、快適性や加速のフィールを含めて、シチュエーションに応じた使いわけが必要である。市街地を、比較的一定速で走れるような状況では有効だろう。

乗り味を言えば、1.2Lのポップは足元に14インチサイズのタイヤを履き、全般的にツインエアよりソフトな乗り味でコーナリング時のボディの動きも大きい。それに対してツインエアは、エコタイヤではあるが15インチサイズのタイヤを装着し、乗り心地とハンドリングのバランスに優れる。

2気筒や排気量に気を取られてしまうが、ツインエアはすでに存在している1.4Lモデルの後継仕様という位置づけであり、「フィアット500」のフラッグシップモデルとなる。走ってみても、そのことを実感できる。

画像: 電磁油圧式の吸気バルブ開閉システム“マルチエアテクノロジー”が採用された、875cc マルチエア2気筒ターボエンジン。従来の1.4Lエンジンとほぼ同等の動力性能を実現しながら、燃費を約30%も向上させている。

電磁油圧式の吸気バルブ開閉システム“マルチエアテクノロジー”が採用された、875cc マルチエア2気筒ターボエンジン。従来の1.4Lエンジンとほぼ同等の動力性能を実現しながら、燃費を約30%も向上させている。

次の一手を見据えた展開だが楽しさは常に忘れない

たとえば、MINIやアウディA1などのコンパクトカーも、やはり小排気量エンジン+ターボというエンジンのダウンサイジングへの考え方には共通す点がある。しかし、これらのブランドは「プレミアム」への強いこだわりもある。ベースモデルとは異なる高い付加価値を備えて、クルマの魅力を増すという「足し算」の考え方だ。

一方のフィアット500には、2気筒エンジンも含めて「シンプル イズ ベスト」で無駄をどこまで排除できるかという「引き算」の考え方が感じられる。ただしそこは、イタリアのブランドたるフィアット。「クルマは走りさえすれば良い」というつまらない考え方はしていない。そのルックスから走りまで「楽しさ」はまったくスポイルされていないところが素晴らしい。

ドイツのプレミアムブランドは、技術的な視点からの積極的なアプローチによって、緻密で正確なクルマ作りがなされているというイメージを強くアピールしている。それに対してラテン系のクルマでは、コマーシャル的に見ても、これまで技術的な視点からのアプローチは少なかった。ルックスがスタイリッシュだとか、走りが楽しい、官能的など、どちらかといえば感性に訴えるような点からのアピールが強かったといえる。もちろん、それはイタリア車の良さでもあるのだが、実は高い技術も備えているのだということが見落とされがちでもあった。

そして最近では、ガソリンエンジンも直噴システムの採用が増えているが、その技術的ベースともいえるコモンレール式直噴ディーゼルエンジンを乗用車用として最初に開発したのはフィアットであり、それはグループのブランド、アルファロメオの156に初めて搭載されているのである。

フィアットは、2010年のヨーロッパ販売車両におけるCO2排出量平均が123.1g/km。4年連続で欧州メーカートップの最低値を達成している。確かに、コンパクトなモデルが多いから優位性はある。だがこの4年間で、さらに10%を削減。加えて言えば、フェラーリやマセラティという大排気量スポーツカーも抱えるフィアットグループ全体で見ても、CO2排出量の平均は125.9g/kmで、欧州メーカートップの値なのである。

冒頭で、フィアットとしてはハイブリッドモデルはまだ時期尚早だと考えている、と書いた。だがこのツインエアエンジンはコンパクトなため、エンジンとトランスミッションの間に電気モーターを容易に組み込むことができるパワーユニットでもある。当然、次の一手を見据えているのである。(文:佐藤久実/写真:小平 寛)

画像: 500ツインエアの上級グレード“ラウンジ”ゆえ、フルオートエアコン、固定式ガラスルーフ、ラゲッジルームランプ、リアパーキングセンサーなどを標準装備。

500ツインエアの上級グレード“ラウンジ”ゆえ、フルオートエアコン、固定式ガラスルーフ、ラゲッジルームランプ、リアパーキングセンサーなどを標準装備。

フィアット500 ツインエア 0.9 8V ラウンジ 主要諸元

●全長×全幅×全高:3545×1625×1515mm
●ホイールベース:2300mm 
●車両重量:1040kg 
●エンジン:直2マルチエアSOHCターボ
●排気量:875cc
●最高出力:63kW(85ps)/5500rpm
●最大トルク:145Nm(14.8kgm)/1900rpm
●トランスミッション:5速AMT(デュアロジック)
●駆動方式:FF 
●最高速:173km/h
●0→100km/h加速:11.0秒
●車両価格:245万円(2011年当時)

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