電動化に向けた動きもしっかりと行いながら、伝統的な自然吸気の大排気量エンジンも精魂を込めて仕上げるフェラーリ。12気筒エンジンを搭載するFRの流麗な2ドアグランドスポーツカー、そのフラッグシップたる資質を実感してきた。(文:島下泰久 写真:フェラーリジャパン MotorMagazine 2024年12月号より)

「ひと握り」のために作られた、あまりにも特別なモデル

エンツォ・フェラーリが、自らの名を冠した最初のモデル、フェラーリ125Sが排気量1.5LのV12ユニットを搭載して登場して以来、V12はブランドの絶対的な象徴として君臨し続けてきた。しかしながら昨今の環境規制、騒音規制、電動化の波もあり、その将来が危ぶまれていることは改めて言うまでもないだろう。

画像1: 「ひと握り」のために作られた、あまりにも特別なモデル

実際、現在のラインナップにおいて最高峰のパフォーマンスを誇るSF90のハイブリッドシステムを構成するエンジンはV8ツインターボであり、先日発表されたF80のそれに至っては何とV6である。時代は緩やかに、しかし確実に変化してきている。

そんな跳ね馬の新たなフラッグシップモデルとして2024年の春に発表されたフェラーリ 12チリンドリの車名は、イタリア語では「ドーディチ チリンドリ」。

要するに「12気筒」を意味することは、皆さんもご存知だろう。

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フェラーリはこのクルマについて「変わることのないフェラーリのDNAについて極めて明確なビジョンを持つ「通」のために設計された、まさにひと握りの人のために作られたモデル」と表現している。確かに、この時代にあえてトップパフォーマンスを誇るモデルではなく、この自然吸気V12搭載車を選ぶ人は、まさしく「通」に違いない。

しかしながら、それは必ずしも古くからのファンだけに向けられたクルマという意味ではない。その外観が365GTB/4、つまりデイトナをモチーフにしていることは明らかだが、実はそのあえてヘッドライトで表情を作らないフロントマスクは当時、新しい時代を志向して採用されたものだった。デザイナーには、12チリンドリにその精神を反映させたいという思いがあったようだ。

大排気量のNAエンジンで極上の美音と滑らかさ

過去を大事に、同時に未来を見据える。そんな存在と言える12チリンドリの試乗の舞台は初訪問のルクセンブルク。その走りの第一印象は、なるほど大人びたスーパーカーだなというものだった。

画像: 大排気量のNAエンジンで極上の美音と滑らかさ

最高出力830psを発生する6.5LのV12自然吸気ユニットは低速域からトルク豊かで、しかも極上の滑らかさを誇る。アクセルペダルを踏み込む量に合わせて、それこそ100rpm刻みで回転を上下させる精緻なレスポンスは、まさに大排気量・自然吸気エンジンならではのものだ。

しかも回転を高めていけば、管楽器かのような音色を断続的に変化させつつ、トップエンドまで勢いを増しながら駆け上がっていく。その最高許容回転数は、実に9500rpmである。

ただし、そのサウンドは決して爆音という類のものではない。開発陣はグランドツアラーというクルマの性格に配慮したというが、背景には厳しさを増す騒音規制への対応という意味合いもあるのだろう。しかしコレ、排気音だけでなくエンジン音まで楽しめるから、個人的にはむしろ大いにアリと感じられたのだった。

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